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医療・介護のよもやま話

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2011.7.2 土曜日

真実は闇の中 176

医療・介護のよもやま話 — admin @ 18:38:04

●●Iさんの決断●● 

Gさんの訃報を聞いたIさんは、Iさんの息子さんがそうだったように、最初はN事務長の悪い冗談だと思ったのですが・・・そんな冗談をN事務長がつくはずもないと思い直したようです。
思いのほか、Iさんは冷静にGさんの死を受け止めたようですが、その心中や如何に・・・

「嫌な話をしてすみません」

「そんなことN事務長が謝ってもしょうがありませんわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「でも、どうしてこんなことになってしまったのかしら」

「本当にそう思います」

「これで、Gさんが自分のしたことについて非を認めて、謝罪することも出来なくなってしまいましたわ」

「ええ・・・」

「もう、N事務長は気付いているかもしれないけれど、私もGさんから一言 『すみません』 という言葉が聞けたら考え直そうと思っていたのよ」

「そうでしたか・・・」

「いつまでも、Gさんと責任の所在について揉めてもいてもしょうがないし、気持ちよく再手術をして今までと同じ生活とまではいかなくても、固定具のない生活ぐらいは出来るようになって、今後の生活を楽しんだ方がいいと思うようになっていたのよ」

「はい・・・私がこんなことを言っていいのかは分かりませんけれど、確かにその方が建設的な考え方だと思います」

「だから、今度息子とGさんが話をする時に、Gさんが謝ったらもう面倒だから全てを水に流して終わりにして、もし謝らなければ再手術にかかる費用負担だけ請求して、それをGさんが払おうが払うまいが、もう全て終わりにしようと思っていたのよ」

「なるほど・・・でも、その本人が居なくなってしまったのですから・・・今後はどうしていきますか?」

「このことは息子も知っているのかしら?」

「ええ、大まかには話をしました」

「そう、それでなんて言っていました?」

「最初は驚かれていましたが、後の判断はお母様に任せるというような意見でした」

「勿論、私の問題だし・・・私のいいようにしてくれということなんでしょう」

「そのように私も受け止めています」

「分かったわ、Gさんの家族に責任を取れと言うのも気が引けるし、もう僅かなお金のことで揉めるのにも疲れたから、この辺で終わりにするわ」

「いいのですか?」

「ええ、Gさんへの香典のつもりで、もうGさんのご家族には請求しないし、話もしないわ」

「本当ですか?」

「その代わりに、N事務長は私の腕が治るまで面倒みて貰いますよ」

「え、ええ・・・」

まあ、ある程度のことはしょうがないでしょう。
入院中に何度かお見舞いに行って、転医先の病院の入退院時の送り迎え等・・・出来ることはそんなに多くはないでしょうが、その程度のことでIさんの気が収まるのならば、お安いご用です。

「なんだか、この病院で手術をして、リハビリ中に再骨折してから随分時間が経った気がするけれど、怒りをぶつける相手が居なくなってしまったら、どうしようもないわ」

「そうですね・・・そのことを証明するにしても、証明した後に責任を取らせるにしても、相手が居なくなってしまえば、なんのことやらさっぱり訳が分からなくて、私もどうしたらいいのか分かりません」

「もういいのよ、病院と揉める気はないし、これが私の運命だと割り切るしかないわ。 Gさんが亡くなったのも本人にしてみれば、もうこれで勘弁してくださいという意思表示と取れなくもないですしね」

「はい・・・」

「でも、こんな嘘みたいな話が本当にあるのね」

「私もそう思いました」

「死人に口無しと言うのか、最後の最後まで真実は私とGさんしか知らなかったし、分からなかったけれど・・・今となっては、これが本当のことと私が言っても、私だけの意見では証明することも出来ないし・・・Gさんが居なくなってしまったら・・・Gさんの死とともに真実は闇の中に葬り去られてしまったということかもしれないわね・・・」

「・・・真実は闇の中・・・ですね・・・」

=完=


2011.7.1 金曜日

真実は闇の中 175

医療・介護のよもやま話 — admin @ 17:59:07

●●報告Ⅶ●● 

普段ならば絶対にしないけれど、今日はIさんより先に応接室に入ってIさんが来るのを待つことにします。
事務長室から隣の応接室に移動して、部屋の照明や空調を入れます。
来客用の3人掛けソファーの上に落ちていた小さな糸くずをゴミ箱に捨てているとドアをノックする音が聞こえます。

「どうぞ」
とN事務長が答えると同時にドアが開いて、外来師長に連れられたIさんが腕を固定したまま姿を現します。
「こんにちは、1週間ぶりですね」

「そうね、時間はあっという間に過ぎていくわ」

「立ち話もなんですから、まずはお掛け下さい」
そういいながら、来客用のソファーに腰掛けるように促すと、付添の外来師長がIさんに話しかけます。

「Iさん、じゃあ私は戻りますね。 再手術上手くいくことを願っています。 手術が終わって落ち着いたらまた顔見せてね」

「ええ、今日までお世話になりました。 腕が完治するように頑張ってきます」

外来師長は 「じゃあ、頑張ってね」 と言いながら、Iさんの肩にそっと手を触れ、その後Iさんの元を離れると、Iさんから見えない様にN事務長にウィンクをしつつ 「失礼します」 と言い、応接室を出て行きました。

「N事務長、今日の話は何かしら? 転医先の事前の外来診察の時間の打合せはしましたし・・・送迎の手配も外来師長にして頂いたし・・・」

「Gさんのことです」

「Gさんね、そう言えば、息子と一緒に会うと言ったきり連絡がありませんけれど、連絡はついたの?」

「そのことなんですが・・・」

「もしかして連絡がつかないの?」

「結果的にはそうなるかもしれません」

「結果的には・・・そうなる?・・・一体どういうこと?」

「実は・・・Gさん、亡くなられまして・・・」

「亡くなった? 何を冗談を言ってるの? 彼まだ20代でピンピンしてるじゃない」

「そうですよね・・・普通はそう思いますよね・・・」

「どういうこと? Gさんと連絡が取れないから、N事務長が考えた冗談や嘘じゃないの?」

「もしそうであれば、その方が良かったかもしれません」

「・・・と言うことは、本当なの?」

「残念ですが、本当です」

「ど・・・どうして、そんなことになっているの?」

「先日、Gさんのご実家にお線香をあげに行ってまいりました」

「お線香・・・もう、そんなことになっているの・・・」

「ええ、私が知った時には、既に荼毘に付された後で、当然のことながらお通夜もお葬式も終わっていました」

「そ、そうなの・・・それで、何故? そんなことになったの?」

「Gさんのご両親にお聞きしたところでは、朝起きて来なくて、起こしに行ったら既に息をしていなかったということでした」

「寝ている間に・・・突然死ということ?」

「ええ、一応そんなことになっているようです」

「突然死か・・・そんなこともあるんだ・・・」

「驚かれるのも当然です。 私も悪い冗談かもしれないと思って、半信半疑でご自宅にお伺いしました」

「そうよね、誰だってそう思うわよね・・・」

「はい」

「なんだか、どうしたらいいのかしらね」

「え、ええ・・・」

以下 ●●Iさんの決断●● は176に続く


2011.6.30 木曜日

真実は闇の中 174

医療・介護のよもやま話 — admin @ 20:09:48

●●報告Ⅵ●● 

次の診察の時で構わないから、GさんのことはN事務長から直接Iさんに伝えて欲しいと、Iさんの息子さんからN事務長は依頼されました。
直接Gさんの家族と話したわけでもありませんから、Iさんの息子さんの気持ちは解らなくもありません。
しかし、Iさんの次の診察日までは1週間ありますし、その日は○×病院での最終診察の日になります。
診察最終日は、転医先の病院への紹介状を渡したり、転医先の病院へ入院する前の事前診察日の時間の調整などをするとH先生からは聞いています。
いよいよ再手術へのカウントダウンが始まる日に、IさんにGさんの嫌なニュースをお聞かせするのは気が引けますが、致し方ありません。
そのことも含めて、Iさんには再手術に向けて前進して頂くしかありません。

整形外来にIさんの診察日の再確認をして、その日に備えます。
Iさんの主治医のH先生にも、院長、看護部長にも今回の件の現状を説明しました。
Gさんの訃報はどうしようもない事実であり、後はIさんがそのことをどのように受け止めて、ご自身の気持ちの整理をつけるかという意見で病院内はまとまりました。

病院としての対応は、N事務長が進めてきたとおりで、Gさんが居なくなってしまった今、以前にも増してGさんがIさんの腕を再骨折させたと証明が出来なくなったので、金銭以外のことでIさんには出来る限りのバックアップをすることで院内での意見を取りまとめ、確認、了解を取りました。
病院は、Iさんの再手術に関して金銭面でのバックアップは決してしないこと、病院が責任を負うべき確証がないのに金銭の授受をすること自体が変である・・・そう考えるとGさんの死は、こと病院の金銭的な負担をするかしないかと言うことに関しては、プラスに働いていると考えられます。
甚だ不謹慎ですが、結果的に病院のことだけを考えれば、Gさんが居なくなったことが、これ以上IさんとGさんの問題をややこしくしたり、複雑にしようにも出来なくさせたということです。
N事務長は、Iさんのことも、Gさんのことも全く考えず、病院のことしか考えていないように思われるかもしれませんが、致し方ありません。
人間性の欠片も見えませんけれど、これが事務長という仕事なのです。

Gさんの診察日。
外来師長に、Iさんの診察が終了次第、事務長室に連絡を入れて貰うように依頼をしました。
午前診もそろそろ終了する時間になって、事務長室の内線電話が鳴り出しました。

「はいNです」

「外来ですけれど、Iさんの診察終わりました」

「そうですか、申し訳ありませんけれど、事務長室の隣の応接室まで誰かに案内させて頂けませんか?」

「それならば・・・大切な話でしょうし、私がお連れしますわ」

「外来師長、申し訳ありませんが、宜しくお願いします」

「はい、看護部長からも言われていますから・・・」

「そうでしたか」

「ええ、Iさんにとっては、大変なことばかりだったけれど、最後は気持ちよく送り出してあげないといけませんしね」

「有難うございます。 さすが外来師長です」

「そうですか? 普通のことです」

「患者さま第一ですね・・・」

「でも、N事務長も本当は患者さま第一で考えたいのでしょうけれど・・・病院第一で考えたり、話をしなければならなくて大変だと思いますよ」

「そう言って頂くと、救われる気がします」

「あら、N事務長が普段より弱気な発言をされている気がしますけれど、大丈夫ですか?」 

「ええ、 これからが本番です」

「そうでしたわ・・・それでは、今からIさんをご案内致します」

「お願いします」

とうとう、この日がやってきました。
外来師長も看護部長やH先生から事の次第を聞いているのでしょう。
外来師長の言葉は、明らかにN事務長にエールを送っています。
最後の最後ですから、誠心誠意頑張るしかありません。
そして、Iさんが冷静に話を聞いてくれて、冷静な判断をしてくれることを願わずにはいられません。

以下 ●●報告Ⅶ●● は175に続く


2011.6.29 水曜日

真実は闇の中 173

医療・介護のよもやま話 — admin @ 17:45:18

●●報告Ⅴ●● 

Iさんの息子さんは、Iさんに再手術は受けさせるけれども、反省と贖罪の意味でGさんに金銭的な負担をさせることが出来ないとなれば、IさんのGさんに対する気持ちの整理がつかないだろうと言います。
しかし、現実に請求する相手であるGさんはもうこの世の中にいません。
最悪のケースを想像すると、Iさんの息子さんはGさんのご家族に請求相手を変えることも考えているのでしょうか?

「どうされますか?」

「私もどうしたらいいのか分かりません」
Iさんのいいようにしてくれればいいのですが、こんな話を聞いた後に、もともと金銭を受け取ることが直接の目的ではなくて、Gさんの反省や贖罪の意味での金銭の負担を求める予定でしたから、じゃあご家族に請求しましょうなんて軽々しくは言えないでしょう。 ましてや、Iさん本人でもないのですから尚更でしょう・・・

「そうですよね・・・」

「世の中は上手くいかないものですね」

「全く、その意見に賛成です」

「でも、まさかこんなオチがつくとは思っていませんでした」

「私もです」

「今となって考えれば、Gさんが○×病院を辞める前に、母の再骨折が判明した時点でN事務長とも、当然Gさんとも話をするべきでした」

「ええ、そうですね・・・」
そうしていたら、今のこの状況は変わっていたでしょうか? いや、その答えは神のみぞ知るということか・・・

「それにしてもこの話を母にしたら、どんな反応をするかな?」

「はい・・・そうですね・・・」

「そうだ、この話はN事務長方からして頂けませんか?」

「わ、私からですか?」

「母の次の診察の時で構いませんから」

「・・・その方がいいですか?」

「ええ、その方がいいと思います。 Gさんのご家族の対応や反応を聞かれても私では答えようがありません」

「確かにそうですけれど・・・」

「じゃあ、それでお願いします」

「・・・ところで・・・少しお考えを聞かせて頂きたいのですけれど・・・」

「何ですか?」

「Iさんは息子さんとして、今後はどうしたらいいと思われますか?」

「今後?」

「ええ、お金のこととか・・・」

「はっきり言って、母もお金に困っているわけじゃないですし、母の治療費ぐらいは私にだって支払いは可能です。ですけれど、あのとおりの性格ですから・・・Gさんが責任を取ると言ったことを守らせようとしているだけだと思います」

「じゃあ、Gさんが居なくなった今となっては、治療費をGさんのご家族に請求するようなことはないと思われますか?」

「そうだと思いますけれど・・・こればっかりは、母と話してみないと分かりません」

「息子さんでも、分かりませんか?」

「ええ、今回のことは母の問題ですし、最後は母の気持ちの問題だと思います。 N事務長は、もし母がGさんのご家族に請求するという方向で話をしたらどうしますか?」

「もし、そうなったら・・・Gさんのご家族には酷な話ですけれど、勿論私にとっても気持ちのいい話ではありませんが、仲介はさせて頂きます」

「それをお聞きして安心しました」

「そうですか・・・」

「やっぱり、母にGさんのことを伝えるのはN事務長しかいないと思います」

「・・・分かりました」

以下 ●●報告Ⅵ●● は174に続く


2011.6.28 火曜日

真実は闇の中 172

医療・介護のよもやま話 — admin @ 19:03:29

●●報告Ⅳ●●

案の定? 予想したとおりの反応をIさんの息子さんは示しました。
電話越しの対応ですが、Iさんの息子さんが絶句している様子が手に取るように分かります。
N事務長が嘘をついていると疑う余地もないほど驚き、どうしていいのか分からない様子です。

「さぞ驚かれたことと思います」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「Iさん、大丈夫ですか?」

「え、ええ・・・N事務長、僕のことをからかったりしていませんよね」

「勿論です。 決してそんなことはありません」
そう、お聞きになる気持ちはよく理解出来ます。私だってGさんのお母さんからGさんが亡くなったことを電話で聞いた時は、騙されているかもしれないと思いました。

「そうか、こんなことってあるんですね」

「はい、嘘のような本当の話とは、まさにこのことです」

「嘘のような本当の話か・・・まだ信じられません・・・」

「それはそうでしょう」

「これから、一体どうしたらいいのでしょうか?」

「そうなんです。 それが問題です」

「何だか訳が分からなくなってきましたねえ」

「全くです」

「N事務長は他人事のような言い方をしますけれど、やっぱり他人事ですか?」

「申し訳ありませんが、私もどうしたらいいのか分かりませんし、どうするべきなのかも分かりませんから、他人事に聞こえるかもしれません」

「そうかもしれませんね・・・それで、Gさんのご家族は何か言っておられましたか?」

「何かとは・・・例えばどんなことをでしょうか」

「母のことや、病院のことについてです」

「Iさんのお母さんのことについては、お名前までは出ていませんでした」

「名前は出ていないとは・・・名前は出ていないけれど、Gさんと母との間に問題があったことをご家族には伝えていたということですか?」

「問題というよりも・・・Iさんのお母さんと名指しではなく、患者さまと揉めて、それが原因で病院を辞めざるを得なくなったというような取り方をされておられました」

「なるほどねえ」

「ですから、Iさんのお母さんの名前は出ていないと思います」

「今更、どっちが悪いとか言い争う気もしませんけれど、こちらが悪くもないのに悪者にされれば目覚めが悪いですね」

「それはIさんの仰る通りですし、もしそうであればIさんのお母さんも、さぞご気分が悪いことでしょう」

「それで、今回の母との問題と、Gさんが亡くなったことは関係ないですよね?」

「ええ、私は関係ないと思いますが、Gさんのご両親はそのストレスも多少は関係あったかもしれないと言っておられました」

「ストレスですか?」

「ええ、ストレスと言っておられました」

「でも、世の中にストレスが無い人なんていますか?」

「いないでしょうし、ストレスの元を作ったのはGさん本人です」

「N事務長の言うとおりです」

「Gさんのご家族には、Iさんとの問題の詳細は話していませんけれども・・・お話するかどうかはIさんに相談してからにしようと思っていました」

「そうですか・・・」

「Gさんが居なくなってしまったから、今後のIさんの方針も変わってくると思いますし・・・」

「方針ですか・・・でも、再手術は受けさせます」

「ええ、それはそうされた方がいいと思います」

「ただ、Gさんの責任についてですね・・・」

「ええ、Iさんの気持ちを考えると、何とも・・・言えません」

「気持ちの整理をつけるのに・・・良い悪いは別にして、お金で解決することすら難しくなったということですね」

「はい、そうなります・・・」

以下 ●●報告Ⅴ●● は173に続く 


2011.6.27 月曜日

真実は闇の中 171

医療・介護のよもやま話 — admin @ 18:11:43

●●報告Ⅲ●● 

Gさんの実家を訪問したことを院長には報告しましたが、問題はこれからです。
一番の問題はGさんの死をIさんがどのように受け止めるかです。
Iさんに直接伝えた場合にIさんがどんな反応をするかは全く想像出来ません。
何となくではあるけれど・・・あくまで想像ですけれど、驚きつつも冷静に対応してくれるであろうIさんの息子さんに連絡をする方が現段階では正解のように感じたので、まずはIさんの息子さんに連絡をしました。
しかしIさんの息子さんは、N事務長からの電話の内容は、当然、昨日自分がお願いしたGさんとの面談日の連絡だと思っています・・・

「今、お時間宜しいですか?」

「ええ、早速Gさんとの面談の件ですね」

「え、ええ・・・」

「Gさんの様子はどうでしたか? 逃げ出したりしていませんでしたか?」

「逃げてはいませんでしたが・・・」

「いませんでしたが・・・とはどういう意味ですか? まさか連絡が取れなかったとか・・・でも、連絡がついていなければ私に電話してきませんよね」

「そうですねえ・・・」

「何ですか? その歯切れの悪さは?」

「実は・・・」

「実は?」

「Gさん本人にはお会いできませんでしたが、ご両親にお会いしてきました」

「Gさんのご両親に会ってどうするんですか? まさかGさんの代わりに親が話し合いに来るとかという面倒な展開じゃないでしょうね」

「ええ、今の段階ではそんなことにはなっていません」

「???、一体どういうことなのですか?」

「実は・・・Gさんは亡くなられていました」

「Gさんが、何を失くしたのですか?」

「いえ、Gさんが何かを失くしたのではなくて、Gさんが亡くなられていました」

「はあ? N事務長の言っていることが分からないです・・・」

「はい、Iさんが驚かれるのは理解出来ます・・・私も驚きましたけれど、Gさんに連絡をしたところ全然連絡が取れ無くて、それで勤務している頃の保証人であったご両親のところへ連絡をしたら、Gさんが突然亡くなられたということが判りまして・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「もしもし?」

「聞いています」

「すみません・・・」

「それは、Gさんが我々やN事務長から逃げようとして親を巻き込んで、一芝居・・・演技をしているとかではありませんか?」

「Iさんが疑る気持ちは理解出来ます。 私も電話で話を聞いた時は、まさかとか・・・冗談でしょうと思いましたが・・・今日の午後にGさんのご実家をお伺いしてきました」

「で、どうでしたか?」

「仏様になっておられました」

「そ、そうなんだ・・・」

「まさか、演技するにしても位牌や遺影、骨壷まで用意しないでしょうし、本当のことだと納得せざるを得ませんでした」

「そうですね・・・」

「突然のことで驚かれていると思いますが、嘘のような本当の話です」

「で、どうして? 死因は?」

「解剖まではしていないということですけれど、朝、起きて来なくて、どうやら寝ている間にお布団の中で息を引き取られたようです。所謂、突然死というものです」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

以下 ●●報告Ⅳ●● は172に続く


2011.6.25 土曜日

真実は闇の中 170

医療・介護のよもやま話 — admin @ 22:05:27

●●報告Ⅱ●● 

院長にGさんの実家での出来ごとの報告をするN事務長ですが、問題は院長が思っているとおり、Gさんが自分の非を認めないのに、後で何かあったら責任を取るなどと無責任な発言をした挙句に病院を辞めたことです。
更には、病院を辞めただけならまだしも、今度はGさんの姿形が消えてしまったのですから、責任を取って貰う側のIさんは堪りません。
姿形が消えてしまったと言っても、何処かに逃げた訳でもなく、言葉のとおりこの世から居なくなってしまったのですから、尚更どうしようも出来ません。
Iさんにこのことを伝えなければいけませんが、どんな方法で伝えるのがいいのでしょうか?
Iさんには、昨日今後の方針を納得して貰ったばかりなのに・・・
院長の言うところのIさんの着地点、Gさんが居なくなってしまった後の納得のいく決着はどうなるのでしょうか?
こうなれば、本当に出たところ勝負。
こちらがああしよう、こうしようと考えたところで、そのとおりに物事が進むはずもありません。
行けるところまで行くしかありません。
それに、今回のことは病院やN事務長が何かを仕掛けたわけでもありませんし、病院は兎も角、N事務長だってその事実に驚いているのですから・・・

「N事務長、Iさんにはどうお伝えしますか?」

「院長、そのことを考えていたのですけれど、ああしよう、こうしようと策を練ってもしょうがありませんよね」

「確かにその通りですし、策の練りようもありません」

「本当にそうです。 そのとおりです。 ですから、事実をそのままお伝えしようと思います」

「それしかありませんね」

「はい」

「それで、Iさんがどんな反応を示そうとも、対応はその時に考えるしかないでしょうね」

「はい、私も今、そう思っていました」

「じゃあ、いつもお願いばかりで申し訳ありませんけれど、Iさんの対応はN事務長にお任せします」

「はい、乗りかかった船・・・というよりも、乗客が居るのに船頭として舵を取るのが面倒だからと船を放り出すわけにもいきませんから・・・そんな気持ちですが、出来ることはさせて頂きます」

「くれぐれも宜しくお願いします」

「それから、Iさんのことですけれど、H先生の話によると・・・H先生が事前にリオペの相談とお願いに紹介先の病院へ行ったら、リオペをすれば90%以上の成功率で腕の骨はつくというお墨付きを貰ってきたようですから、H先生も安心してリオペをIさんに促してくださいと言っていましたからね」

「そうですか、それを聞いて安心しました。 Iさんにリオペをお勧めしているものの、失敗したらIさんの気持ちの行き場がありませんから・・・先方の病院がそう言って頂けるのならば、Iさんには安心して腕を治療して貰って、腕が治ればIさんの気持ちも落ち着くでしょうから、そのことを私の心の拠り所として、これからIさんに接していきます」

「先方の病院の執刀して頂ける先生は私もよく知っていますし、H先生の先輩でもありますから、その先生がそう言ってくださるのですから鬼に金棒です」

「はい、了解しました。 そのことを踏まえて、早速行動を起こすことにします」

「宜しくお願いします」

院長への報告はここまでにして、事務長室に戻ってIさんに連絡をすることにします。
勿論、Iさんに連絡すると言っても、折角昨日Iさんの息子さんにお会いしたのですから、まずはIさんの息子さんに連絡をして息子さん経由でIさんには連絡を取る形とします。
Iさんの息子さんであれば、Gさんが亡くなられたという事実には当然驚くでしょうが、嘘のような話でも事実として冷静に受け止めてくれるだけの人物であり、そう期待してもいいだけの人物でもあるとN事務長は思っています。
上手くいけばIさんの息子さんから、それならばしょうがないですね というようなN事務長にとってはこれ以上ない言葉が聞けるかもしれませんし、そう願いながら昨日Iさんから貰った名刺を取り出しました。
Iさんの名刺に印刷された携帯番号に電話を掛けます。
1回、2回、3回と呼出音が鳴った後に、Iさんの息子さんが電話に出ました。

「はい、Iです」

「お忙しいところすみません。 昨日お時間頂戴しました○×病院のNです」

「ああ、N事務長ですか」

「今、お時間宜しいですか?」

「ええ、早速Gさんとの面談の件ですね」

「え、ええ・・・」

以下 ●●報告Ⅲ●● は171に続く


2011.6.24 金曜日

真実は闇の中 169

医療・介護のよもやま話 — admin @ 18:56:01

●●報告●● 

Gさんの家から出た途端に、ホッと胸を撫で下ろすとはこのことを言うのか・・・説明しようの無い安堵感や解放感を感じました。
Gさんのお父さんは挨拶をしたきり、始終睨みつけるような顔で無言を貫いていましたし、お母さんの言葉の端々からは、N事務長に対して気こそ使っているように見せていますが、明らかにGさんの退職の原因にN事務長が関係していると疑っていることが伝わってきました。
それにも増して、Gさんは○×病院での患者さんとの間に何がしかの問題があり、それこそが退職の原因であり、それらがストレスの起因となって今回のGさんの死に繋がったのではないかと思っている節が、お母さんの言葉の端々から伝わってきました。
更にその患者さんとの問題には、当然N事務長も絡んでいるはずなのに・・・職場の仲間、上司として何故息子の味方となり、息子を助けてくれなかったのかという強い疑念を抱いていることを感じさせました。

Gさんの実家を訪問して、Gさんが間違いなくこの世から居なくなってしまったことを・・・N事務長は確認しました。
このことをIさんに伝えた後、Iさんの行動にどんな変化が起きるか分かりませんが、このことはIさん親子にとっても、決していい気分で楽しく聞ける話ではないはずです。
でもIさん親子に伝えなければいけないことは確かであり、N事務長も言葉を間違えることなく、言葉を選びながらも事実だけを正確に話さなければいけないと身が引き締まる思いがしてきました。

Iさん親子にGさんの死を伝える前に、病院に戻って院長に報告をしなければなりません。
院長はどんな反応を示して、どんなことを言うのでしょうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「院長、戻りました」

「お帰りなさい、どうでしたか?」

「ええ、あまり気分のいいものではありませんでした」

「まあそうでしょうね・・・」

「針のむしろとは、このことかという気がしました」

「針のむしろですか・・・」

「はい、回りから見えない針でちくちくと刺されているような気分でした」

「それで、Gさんのご家族は何か言っておられましたか?」

「Gさんの死は本当に突然のことだったようで、唖然茫然というのが正直な感想のようです」

「なるほど・・・それで死因は?」

「夜寝ていて・・・朝、起きてこなくて様子を見に行ったら、息をしていなかったということです」

「そうですか」

「ええ、解剖はしていないようですが、他殺等の疑いはなく突然死だということです」

「心臓かな? それとも脳の血管かな?」

「どうなんですか?」

「診ていないから分かりませんが・・・」

「そうですよね・・・」

「兎に角、Gさんが逝ってしまったことは確かで、事実であることが明らかになったということですね」

「はい」

「Iさんには話しましたか?」

「まだです」

「当然お話しますよね?」

「ええ、そうしなければいけないと思います」

「話の流れから考えても、話すことが正しい選択でしょうね」

「はい」

「これで、今後はIさん親子がどこで気持ちの整理をつけるかが問題になってきましたねえ」

「ええ、昨日の話ではGさんが自分の失敗は認めないけれど、責任を取りますと言う言葉を使ったことは認めていますから、責任を追及するのではなくて、リオペにかかる費用負担で一件落着にしようと踏ん切りをつけたばかりですし・・・」

「責任の追求どころか、一部でも費用を負担して貰うことさえ出来なくなってしまいましたから、着地点が難しいですね」

「はい・・・最後は気持ちの問題で許す、許さないですから・・・今までに一言でも 「ごめんなさい」 と謝罪の言葉があったり、非は認めないまでも、少しでも治療費の負担でもしていたら、現状は違っていたと思います・・・」

「本当にそうだと思います。 今となっては良くも悪くも・・・死人に口無し・・・です」

以下 ●●報告Ⅱ●● は170に続く 


2011.6.23 木曜日

真実は闇の中 168

医療・介護のよもやま話 — admin @ 16:21:09

●●Gさんの仏前Ⅵ●● 

今日N事務長が家を訪ねることをGさんの奥さんとお子さんは知らないそうです。
どうりで、実家に居ると聞いていたGさんの奥さんとお子さんの気配がないはずです。

しかし、Gさんのご両親の話で分かったことが何点かあります。
まずGさんが○×病院を辞めたのは、転職が決まったからではないこと。
そして、家族には病院を辞めた理由の一つに患者さまとの問題があったと伝えていたこと。
けれども、Iさんとの問題を詳しく家族に話していなかったこと。

これらのことを総合的に考えると、Gさんの家族に病院で何があったのかを話すのは、IさんがGさんの訃報を聞いてどのような反応を示すのかを確認してからでも遅くはないように思えてきました。
遅くはないというよりも、それがN事務長に出来るGさんへの、いやGさんの家族に対するお悔やみの気持ちのようにさえ思えてきました。

「ところで、息子は病院ではどうでしたか?」

「どうでしたか?」

「ええ、しっかりと働いていましたか?」

「え、ええ・・・」

「そうでしたか、何しろ結婚して家を出てからは、話す機会も減りましてね」

「そういうものですか?」

「そういうものよ」

「でもお母さんや、お父さんの住んでいるこちらの家と、Gさんが住んでいたマンションはさほど離れてはいませんよね」

「月に一度くらいは、孫を連れてきてくれたけれど、孫の話が中心で息子の仕事の話はしなかったから」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「職場の皆さんとは仲良くしていたのかしら?」

「ええ、誰かと喧嘩をしていたとか、仲が悪かったというようなことは聞いていません」

「息子がこんなことになって、前の職場の仲間とかに伝える人は居ないのかと嫁に聞いたら、誰ともあんまりお付き合いがなかったと返事が返ってきたのよ」

「そうですか・・・」

「本当はどうだったの?」

「私は、Gさんと同じ部署にいた訳ではありませんので、特に誰と仲が良かったかは分かりませんし、職場の仲間の間で何か問題があったとも聞いていません」

「そう・・・その返事からすると、病院にあんまり親しい人は居なかったようね」

「・・・・・・・・・・・・・・・」
物は言いようです。 沈黙は金なり。

「まあいいわ、問題は息子の病院での様子を聞くことじゃないわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「息子が病院を辞めることになったという、患者さまのことも聞きたいと思っていたのよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「あら、そのことについてはN事務長はご存知なのでしょ?」

「え、ええ・・・」

「どうなさったの?」

「はい・・・どうもしません」
まいったなあ・・・そんなこと確認しなくてもいいのに・・・Iさんの様子をみてから穏便に済むようにしますから、今はこれ以上話しを掘り起こさないでください。

「今後、息子のことで知っておかなければいけないことが間違いなく出て来るでしょうから、何かあったらお聞かせくださいね」

「はい」

「で、どうなのかしら?」

「病院に戻りまして、お父さん、お母さんにお伝えしなくてはいけないことがあるか確認して、お伝えすることがあればご連絡させて頂きます。 今は退職後の手続きも全て終了していて、問題は無いと聞いています」

「そうなの?」

「はい」

お母さん、聞かぬが仏、知らぬが仏、という言葉もあります・・・

以下 ●●報告●● は169に続く


2011.6.22 水曜日

真実は闇の中 167

医療・介護のよもやま話 — admin @ 16:52:07

●●Gさんの仏前Ⅴ●● 

Gさんがどうして亡くなったのかと尋ねるN事務長に、Gさんのお母さんが話し始めます。

「突然でした」

「突然というと?」

「朝、嫁から電話があって、Sが起きてこなくて見に行ったら息をしてないって・・・」

「突然死ですか?」

「ええ、解剖はしませんでしたが、心筋梗塞か何かだろうということでした」

「寝ている間の出来事ですか?」

「そうなの・・・」

「じゃあ、誰にも気付かれない間に亡くなられたのですね」

「子供が小さいから、嫁と子供の寝る部屋と別の部屋で寝ていたみたいです」

「そうですか・・・」

「○×病院の患者さんのことで悩んでいたみたいだから、それがストレスになって引き金になったのかもしれないと嫁は言っていました」

「ストレス・・・ですか・・・」
私やIさんには、そんな気配さえ見せませんでしたが、やっぱり気にはしていたようです。

「勿論、そんなことでN事務長を責めているわけではありませんが・・・」

「はい」

「嫁は兎も角、子供は小さいから不憫でねえ」

「そうですね・・・」
ここは、頷くしか他に手はありません。 確かに残されたお子さんのことを考えれば可哀相です。 子供に罪はありません・・・

「その患者さんのことですけれど、詳しいことは嫁も聞いていないみたいだけれど、一体何があったのですか?」

そうですか、それをお知りになりたいですか・・・でも・・・聞かない方がいいと思うけれど・・・さてどうするべきか・・・本当のことをお伝えした方がいいのか、悪いのか・・・でも、Gさんの訃報を聞いた後のIさんの考え方や出方で対応が変わってくるはずです。 今、性急にN事務長が勝手な判断で、本当のことをGさんのご家族に伝えるか伝えないかの答えを出すべきではないでしょう。 判断を間違えれば、死者に鞭打つことになるかもしれません。 ここは一先ず、当たり障りのない答えをしておくことにします。

「医療従事者は、どんな職種であっても、患者さんと意見の相違があるものです」

「それは分かるけれど、病院を辞めるようなことって・・・何ですか?」

「病院を辞める、辞めないはご本人のお考えで変わったと思います」

「でも、N事務長は息子に退職を迫ったのでしょ?」

いや、退職は迫っていないし・・・後々になって、確かに厄介払い出来たと思ったのは事実ですが、Gさんから退職の意思を聞いた時は、Iさんとの件を中途半端な結果で逃げるように辞める姿勢に驚いたものです。
ここは、退職を迫ったことについては否定しておきましょう・・・

「恐縮ですが、決して退職を迫ったりはしていませんので、そのことは否定させて頂きます」

「そうなの? 嫁に言わせると、辞めざるを得なかったと息子は言っていたみたいで、N事務長の名前も出ていたみたいよ」

「そうでしたか・・・」

「だから今日も、嫁には席を外すように言ったの」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「嫁はまだ息子の突然の死を受け入れられていないようで、まあ私達もそうだけれど・・・今日、N事務長がここに来ることも嫁には内緒にしてあるのよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ここは、何と答えるべきなかのか・・・さすがに言葉が出て来ません。
沈黙は金と言うように、ここは黙っている方が良さそうです。
今日この場にGさんの奥さんとお子さんが居ないのは、無用な争いを避ける為の緊急避難的措置で、Gさんのお父さん、お母さんが、現時点でN事務長に出来る唯一の心遣いと受け取れなくもありません・・・
確かに、ここで憶測で話をされても困りますし、恨まれるくらいならば兎も角、逆切れされて刃傷沙汰なんて笑えません。

以下 ●●Gさんの仏前Ⅵ●● は168に続く


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