行き場のない患者21
●●Tさんの独壇場●●
診察室から出てきたTさんは、ノッポ君と茶髪作業着君を両脇に従えてN事務長に語り続けます。
あーあ、Tさんはさっきまで苦しんでいたはずなのに、この饒舌ぶりは何でしょう?
やっぱり、単に薬を打って欲しかっただけなんですか?
「ところで、事務長さんはここの病院は長いの?」
「そうですね」
「そうですねって、何だよ! 何年働いているんだ?」
「事務長として赴任してから3年目です」
「赴任? アンタ子供居ないのか?」
「子供?」
「ああ、不妊してから3年なんだろ?」
「???」
「あの治療は大変なんだよな」
「治療?」
「アンタ、頭悪いんじゃないの? 不妊治療してから3年なんだろ?」
「不、不妊治療じゃなくて・・・赴任してから3年です」
「そうか治療してるわけじゃないんだ、3年間、不妊しているだけなんだ。子供は作らない主義ってわけか」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
まあいいか、ここは話を合わせておきましょう。
でも、それを言うなら、不妊じゃなくて避妊でしょ!
「子供は可愛いよ。アンタも不妊なんかせずに、早く子供作りな。アタシの子供達なんか、今も心配して夜ごはんも食べずに病院に付いて来てくれるんだよ」
だから、不妊じゃなくて避妊でしょ!
まあいいか・・・
「そうですね、お母さんであるTさんを心配されてるんですね」
お母さんを心配して、あの目付きですか・・・
「今日は、そろそろ帰るけど、今度発作が出たら頼むよ」
「頼むとは、どういうことですか?」
「だから言ってるだろ! いつもの薬出すように言っておいてくれや」
「はあ・・・何度も言うようで申し訳ありませんが、それは、私の仕事の範疇ではありません」
「そう言わずに、今日で知り合いになったことだしな」
「知り合い?」
「なんだよ、不服か?」
「不服とかそう言うわけではありませんが、お顔見知り程度ですよね」
「お顔見知り? ハハハ、舌噛みそうだ」
「そうですか・・・患者さまとして記憶させて頂きます」
「おうおう、よーく記憶しといてや」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
以下 ●●Tさん家路に着く●● は22に続く