行き場のない患者50
●●御前会議Ⅲ●●
Tさんは確信犯で精神的な病気を含めた本人の資質が10%で、生活保護費確保の為の演技が90%だと断言するN事務長に対して、院長と看護部長は、
「じゃあ、Tさんは詐病で、言ってみれば生活保護費の受給目的の為だけに病院に来ているということですか?」
「その辺りのどちらが先かということについては判断が難しいですが、卵が先か鶏が先かと同じことだと思います」
「N事務長の人物像把握能力はなかなかのものだと思っていますが、そこまで考えますか?」
「はい、その可能性が非常に高いと思います」
「そうですか・・・生活保護費の受給要件か・・・」
「ええ、要件の中で最も大切なのは、就業出来ないことですよね」
「ああ・・・」
「もちろん、あの精神状態で勤務される会社も溜まったもんじゃないでしょうが、Tさんの場合は生活保護費を受給することによって、Tさんの労務管理で悩む会社や経営者がいなくなるという意味では、価値ある支給でしょう」
「それは言い過ぎだろ」
「院長、何処の会社でも労務管理には莫大な予算と労力を掛けています。当院でもそうです」
「もちろんそうだが・・・」
「Tさんは、今は生活保護費の受給する為にその労力を費やしていますが、この労力を会社からいかにして楽してたくさんの金銭を受け取るかということに専念したとすると・・・考えるだけでゾッとします」
「まさか? そんなことまで・・・」
「いえ、最悪の場合をいつも考える私の悪い癖ですが、あり得ない話ではありません」
「もちろん、あり得ないことではないだろうが・・・」
「院長や看護部長は医療従事者ですから、どちらかと言うと性善説でしょうが、私は普段から他人の嫌な姿ばかり見せられていますから性悪説なんです」
と院長とN事務長が話をしていると、ほったらかしにされている看護部長が2人の話に割り込んできます。
「じゃあ、N事務長は、私や院長も性悪説で見ているってことなの?」
「いやいや、看護部長なんて性悪説なんかじゃなく、悪人そのものです」
「なんですって!」
「冗談です。院長や看護部長のように付き合いが長くなれば、良いところも悪いところも理解した上でお付き合いさせて頂いております」
「良いところも悪いところもということは、悪いところがあるわけね」
「それは・・・まあ・・・誰にだって・・・」
「私の悪いところって何処かしら?」
「そうですね、こうやって話に割り込んで来たり、すぐ人に絡むところなんか・・・まさに悪人そのもの」
「まあ失礼な人」
「ハハハ、看護部長そのへんにしておきなさい」
院長のナイスフォローです。
「全くもう、N事務長ったら・・・」
院長との話を再開することにします。
以下 ●●御前会議Ⅳ●● は51に続く