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医療・介護のよもやま話

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2010.3.31 水曜日

行き場のない患者(Tさん)のその後6

医療・介護のよもやま話 — admin @ 12:57:32

●●O弁護士再びⅡ●● 

他人事?ではありますが、思い立ったら即行動。
Tさんの周囲の人の中で、一番頼りになって、影響力をあるO弁護士に電話を掛けて、昨日のTさんの○×病院での行状を訴えると、O弁護士は、N事務長の言葉に頷き返してくれます。
ここは、Tさんの暴走を抑える為にO弁護士の力を借りるのが一番有効な方法だとN事務長は確信しました。

「失礼ですが、今もまだTさんと近い関係でいらっしゃいますか?」

「そうですね・・・近いと言えば近いですね」

「大変恐縮なお願いですが、Tさんに今回のことについて話す機会はありませんか?」

「まあ、電話を一本掛けるだけですみますね」

「それでは、その電話をお願い出来ませんか?」

「それは、N事務長からの依頼と受け取っていいんですよね?」

「いえ、私の依頼ではなく、Tさんが負けるであろう刑事、民事訴訟の被告となって、その弁護をする手間を省く為と思って頂きたく思います」

「ハハハ、さすがですね」

「そうですか?」

「世の中に、弁護士をタダで使おうと考える人はいませんよ」

「タダで使うんじゃなくて、先行投資と思ってください」

「よく言いますね」

「じゃあ、実費だけお支払いしましょうか?」

「それは電話代と電話を掛ける労働に対する対価を含んでですか?」

「申し訳ありませんが、私の財力では電話代だけになります」

「ハハハハハ」

「どうやら、お願い出来るようですね」

「まいったな。これじゃあ単なるお人好し弁護士、貧乏弁護士の見本です・・・」

「いえいえ、人権派弁護士の鏡です」

「上手いこと言いますね。 まいりました。 それでは電話代の代わりに、一つ教えて頂くとしましょう」

「何をお教えしましょうか?」

「Tさんのことです」

「Tさんのことは、私よりO弁護士の方が詳しいと思いますけれど・・・」

「もちろん、Tさんの置かれている環境や悩みなんかは知っていますが、どうしてあのような行動をするかについて、N事務長の客観的なご意見を頂戴出来ませんか?」

「そういうことですか・・・」

「病院という特殊な世界に勤務されているわけですから、いろんな患者がいて、似たようなケースは当然ありますよね」

「ええ、まあ・・・同じケースと言えるかどうかは分りませんが、似たようなことをする患者さまが居ないわけではありません」

「私もある事情から、今後もTさんと付き合っていかなければいけない身ですから、その辺りを踏まえておきたいんです」

それでは、地雷を踏まない程度に、私の思っていることを交換条件としてお教えすることにしましょう。
地雷を踏まないって?
そう、TさんとO弁護士が同胞であるということ・・・

以下 ●●N事務長の見解●● は7に続く


2010.3.30 火曜日

行き場のない患者(Tさん)のその後5

医療・介護のよもやま話 — admin @ 13:47:58

●●O弁護士再び●● 

Tさんの愚行、暴走を止められるのは、O弁護士しかないと考えたN事務長は、○×病院の院長に事前連絡をせずに直接O弁護士事務所に電話を入れます。
電話に出た女性の様子からすると、O弁護士は事務所内にいるようです。

「お電話代わりました。Oです」

「O弁護士、ご無沙汰しております。以前にTさんの件でお世話になりました○×病院におりましたNです」

「N・・・○×病院のN事務長ですか?」

「はい」

「これは珍しい。随分御無沙汰ですね」

「その節は、お世話になりました」

「いえ、こちらこそ、つまらないことでお時間を頂きました」

また、そのつまらないことで電話したんです・・・
「とんでもありません」

「今日は何かご相談でも・・・私がお役に立てることですか?」

「相談と言えば、相談なんですが・・・」

「それならば、改めてお時間を取りましょうか?」

時間を取って貰うと、お金が発生しますから、電話でいいです・・・
「有り難いお言葉ですが、緊急を要する案件でして・・・」

「なんですか?」

「実は・・・Tさんの件です」

「T?・・・何かありましたか?」

「ええ、と言うよりはあったみたいです」

「あったみたい?」

「私、2週間程前に同じ系列の□□病院に転勤になりました」

「そうですか?また新しい病院で御活躍なさるわけですね?」

「出来るかどうかは分りませんが・・・以前に勤務しておりました、O弁護士も御存知の○×病院にTさんがまた来られて、以前と同じような要求をしたということなんです」

「えっ?」

「O弁護士の取り計らいで、以前はTさん本人が私に謝罪に来られまして、私もその謝罪を受け入れました」

「そうでした、そうでした。そのことは私もTさんから確認した記憶があります」

「その時点での私の認識では、Tさんの謝罪を受け入れる代わりに、Tさんが私にした暴行、その他の行為を不問に付し、Tさんは○×病院には今後一切、診療行為等の要求をしない、つまり○×病院に出入りしないということだったと思っていました」

「ええ、私もそのように認識しています」

「それなのに、私が転勤した途端に、Tさんが○×病院に出入りし始めたということです」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「これは、O弁護士に折角お骨折りを頂いて仲裁頂いたのに、約束は何だったのかと・・・」

「そうでしたか」

「勿論私は、今現在○×病院の事務長ではありませんが、あの約束は私との約束ではなくて、○×病院の事務長としての約束だと今でも認識しております」

「確かにその通りだと私も思います」

「ただ現状としては、その約束をTさんが反故にしたということです」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

以下 ●●O弁護士再びⅡ●● は6に続く


2010.3.29 月曜日

行き場のない患者(Tさん)のその後4

医療・介護のよもやま話 — admin @ 10:45:11

●●N事務長の作戦●● 

御前会議の最中か、会議後なのかは分りませんが、○×病院の院長からの電話でTさんの対応方法を考えることになったN事務長。
院長に返事をするまでの時間は30分ですから、それほど熟考する時間の余裕はありません。
簡潔に、しかも有効な方策を練らなければいけません。

新しい勤務先の仕事を止めて、頭を切り替えます。
まずは、Tさんの行動を整理します。
1.Tさんは、N事務長が転勤したことを知った。
2.救急搬送時にTさん本人が○×病院を指定した。
3.救急搬送時のTさんの病名は、以前と変わらず過換気症候群。
4.搬送後、Tさんは大好きな薬、ベンゾジアゼン系抗不安薬を要求する。
5.担当医師は、その必要なしと判断する。
6.その判断の元になったのは、カルテに記載された院長、内科部長の判断無しでは処方禁止の文字とも考えられる。
7.その判断に激高したTさんが、担当医師に向かって 「この病院にN事務長はもういないから、いいだろ!」 と叫んだ。

これらの状況から考えると、Tさんが○×病院に来ないと言ったのは、N事務長が○×病院に居る限りということだったということなのか?
Tさんの中では、○×病院に迷惑を掛けたとは思っていない。
迷惑を掛けたのは、○×病院ではなく○×病院に勤務するN事務長に対してだけである。

当時のことを思い返してみると・・・
確かにそうかもしれません。
あの商店街の喫茶店で、Tさんは息子を連れて来て謝罪はしたけれど・・・
その謝罪は、N事務長に対して暴行を働いたことに対してであったように思えてきます。
確かに、Tさんは、申し訳ありませんでしたと言いましたが、それはN事務長に対してだけであって、○×病院に対して申し訳ないとは一言も言っていない。
失敗でした。
あの時に、私に対してですか?
○×病院に対してですかと確認しておけばよかった。
そして、N事務長に対してですと答えが返ってきたら、すかさず○×病院に対しても同じですと念押しするべきでした。

このTさんらしい勘違いを是正出来るのは?
茶髪作業着君は全然ダメ。
ノッポ君は、連絡先は分っていますが、今回は姿を見せてないようです。
そうなると頼みの綱は、O弁護士!
そうです。それしかありません。

早速、O弁護士の連絡先を探し始めます。
携帯のメモリーには当然のことながら入れていません。
転勤時に、○×病院で関係のあった人達の名刺は全て病院に置いてきましたが、それらの何百枚にもなる名刺のコピーは取ってあります。
○×病院関連資料ファイルを鞄の中から取り出し、更に名刺ファイルを取り出します。
名刺ファイルの中でリスク関連と書かれたA4コピー用紙を見ると、ありましたO弁護士の名刺!

早速、その電話番号をメモして、O弁護士の事務所に電話をしてみることにします。
まだ朝早いから、事務所内に居ることを祈りつつ、事務机の上の電話の受話器を取ります。

受話器を取って、大きく書き写したO弁護士事務所の電話番号をプッシュします。
呼出1回、2回、3回。

「はい、O弁護士事務所です」

女性の声です。事務員でしょうか?
「恐れいります。私、○×病院で事務長をしておりましたNと申しますが、O弁護士お願い出来ますか?」

「○×病院のNさまですね?」

今は違うけれど、取り次ぎ者に細かいことは省略です。
「はい」

「少々お待ちください」

どうやら、O弁護士は事務所にいるようです。
ラッキー!

以下 ●●O弁護士再び●● は5に続く
 


2010.3.28 日曜日

行き場のない患者(Tさん)のその後3

医療・介護のよもやま話 — admin @ 19:39:09

●●御前様からの電話●● 

医事課イケメン職員のS君からの連絡によると、○×病院ではこれから御前会議が開催されるようです。
メンバーは院長、看護部長、新事務長、そして参考人としてS君の招集がかかっているということです。
今日の御前会議は、果たしてどんな内容なっているのでしょうか?
そう言えば、N事務長も○×病院に勤務していた頃は、朝から御前会議によく出席したものですが、N事務長がいた頃の御前会議は、N事務長が議題を出し、その対応を考えて、院長、看護部長の了承を頂くというものでしたが、新事務長はどうでしょうか?
着任早々、面倒なことに巻き込まれてしまったと嘆いているに違いありません。

S君から電話を貰ってから30分くらい経ったでしょうか、N事務長が新しい勤務病院で朝の仕事を始めると、机の上に置いた携帯電話が鳴り始めます。
着信表示を見ると、○×病院の院長です。
これは、出ない訳にはいきません。

「はい、Nです」

「お疲れ様、元気で活躍されていますか?」

「ええ、のんびりと仕事させて頂いています」

「そっちは、○×病院のように野戦病院化しないのかね?」

「ええ、どちらかと言えば、私も○×病院のような野戦病院が好きなんですが、どうもこの病院の職員はアカデミックなことが好きなようで・・・」

「まあ、それで経営が成り立つのであれば、その方がいいですね」

「はい」

「ところで、S君から聞いていると思うんだが・・・」

なんでS君は、そういうことを院長に言うの・・・
これでは高みの見物が出来ないじゃないですか・・・
「昨夜のTさんのことですか?」

「また、性懲りも無く救急搬送されてきて、同じことを要求したようなんです」

「そうみたいですね・・・」

「看護部長が救急隊に確認したら、どうやらTさん本人が○×病院と指定したらしんだよ」

「そうですか・・・」

「どうやら、N事務長が転勤したことを聞いて、試しに搬送依頼したみたいだ」

「そうなんですか?」

「ああ、多分間違いない」

「何かそれを裏付けるようなことがあったのですか?」

「当直の医師が、Tさんの要求する薬を拒絶したら・・・」

「はい・・・」

「この病院にN事務長はもういないから、いいだろ!って叫んだらしい」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「やっぱり、あのような患者は、何があっても変わりませんね」

「そうですか・・・」

「それで、お願いがあるんです」

「何でしょうか?」

「Tさんをこれまでどおり当院から締め出す何か良い方法はないでしょうか?」

「分りました。少しお時間を頂けませんか?」

「分りました」

「少し考えて、30分したらこちらからお電話します」

「忙しいのに申し訳ありません」

「院長のたってのお願いです。無い知恵を絞って、何か一番有効な方法を考えます」

「よろしくお願いします」

安請け合いしてしまいましたが、知らん顔も出来ません。
少し考えてみることにします。

以下 ●●N事務長の作戦●● は4に続く


2010.3.27 土曜日

行き場のない患者(Tさん)のその後2

医療・介護のよもやま話 — admin @ 20:29:54

N事務長が転勤するや否や、夜間に○×病院へ救急搬送されたTさん。
その様子は、いち早くその日の事務当直であったイケメン職員S君によってN事務長へ連絡が入りました。
それにしても、まるでN事務長が転勤をして○×病院に居なくなったのを見越したようなTさんの行動、それも救急搬送された時の病名は、過換気症候群だなんて・・・
交通事故や外傷とか、腹痛なんて病名ならば理解も出来ますが、Tさん、早速やってくれたのかな?

翌日
自分の現在勤める病院ではないものの、やはり何年間かお世話になった○×病院です。
高みの見物ですが、多少?は心配です。
どうなったのか興味もあるし、早く電話が掛かってこないかなと思っていると、9時を回った途端に携帯電話が鳴りだします。

「おはよう」

「おはようございます」

「どうだった?」

「相変わらずでした」

「そうなの?」
今の病院には無い、野戦病院的な喧騒を思い出しながら笑ってそう言うと、

「N事務長、今、笑ってませんでしたか?」
早速、勘のいいS君に悟られてしまったようです。

「いや、笑っていたけど、懐かしくて笑っただけだよ。笑ったというよりは微笑んだと言ってくれない?」

「そんな悠長なこと言ってられません」

「どうしたの?」

「これから、院長、看護部長、新事務長に報告に行かなければならないんです」

「そうなの?」

「ええ、案の定、あの後、当直の先生と一悶着ありまして・・・」

「Tさん、何したの?」

「薬を指名したようで、それを拒絶した先生と一悶着です」

「ドンパチやらかしたの?」

「ドンパチはありませんでんでしたが、ギャーとかオラオラとかはありました」

「フフフ・・・そうなんだ・・・」

「また笑ってません?」

「ああ、ゴメン」

「全く、病院変わったら、他人ごとですか?」

「そうだね、他人ごと、高みの見物」

「じゃあ、呼ばれてますから行ってきます。結果は、また連絡しますね」

「ああ、そうしてくれる。楽しみにしてるよ」

「あーあ他人ごと・・・じゃあ、後でまた電話させて頂きます」

そう言ってS君は、一旦電話を切りました。
これから、新メンバーを含めた御前会議が開かれるようです。
この調子だと、S君からの報告の前に、院長や看護部長から連絡が入りそうです。
頑張れ、○×病院!

以下 ●●御前様からの電話●● は3に続く


2010.3.26 金曜日

行き場のない患者(Tさん)のその後

医療・介護のよもやま話 — admin @ 15:19:19

Tさんは、その後どうなりましたかというコメントが寄せられました。
あのTさんが、このまま引き下がるはずありませんよね?
そうなんです・・・

○×病院に勤務していた頃は、毎日のように商店街を通っていましたから、Tさんと話をしたコーヒーハウスの前を通るたびに、あの時の媚を売るようなTさんの甘ったるい顔を思い出しました。
異性に科を作る姿、突然暴れ出す姿、どちらが本当のTさんなの?
多分どちらのTさんも、Tさんなんです。
人間は皆2面性を持っていますが、そのどちらかは隠れていたり、隠しているもの。
でもTさんは、どちらも平気で出す。
よく言えば、自分の気持ちに正直に、素直に動く。
ただそれだけ。

実は、Tさんと最後に話をしてから1年程、N事務長は○×病院に勤務していましたが、その後、隣県の系列病院に転勤となりました。
N事務長が転勤して2週間が過ぎた頃、N事務長は○×病院の医事課イケメン職員のS君から、深夜に自宅で一本の電話を受けます。
その時の電話をリプレイしてみます。

「はい、Nです」

「N事務長、Sです」

「どうしたの、こんな夜遅くに・・・まさか、これから飲みに行きましょうって誘いじゃないよね?」

「残念ながら・・・今、当直中です」

「何かあったの?」

「出ました?」

「出ましたって、またあの怪奇現象?」

「怪奇現象にはもう慣れっこですけど、そんなことより恐いことです」

「何?」

「出ましたじゃなくて、現れました」

「霊?」

「違います。来ました、来ちゃいました」

「何が来たの?」

「T、Tさんです」

「ええー」

「今、救急搬送されてきました」

「救急搬送?」

「交通事故か何か?」

「いえ、過換気です」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「まさかとは思ったんですが・・・」

「何で断らなかったの?」

「名字しか救急隊が言わなかったものですから、別人だと思ってました」

「そうか・・・救急隊も気が付かなかったのかな?」

「今日の班は、隊長も初めての人です」

「そうか、救急隊も異動の時期だもんね」

「そうなんです」

「それで、どんな様子なの?」

「以前と同じで、子供達3人と前とは違う男性が2人付いてきました」

「以前と違うということは、茶髪作業着君やノッポ君はいないということ?」

「ええ、違います。今日の2人は、スーツ着ています。一般社会人のスーツです」

「へー、Tさん好みが変わったのかな?」

「そんなこと言ってる場合じゃないです」

「ゴメンゴメン、他人事だから」

「他人事じゃないです。どうしましょう?」

「今日の当直の内科は?」

「それが、入職したばかりのドクターで、Tさんの前歴?前科?・・・経歴?経緯を知らないんです」

「しょうがないね、搬送受けたからには、処置してあげないと・・・カルテ持って行く時に、カルテの表紙と一号用紙の間の特筆事項を開いて見せてあげることだね」

「それしかないですよね・・・」

「奮闘を祈るよ!」

「また、明日連絡します」

「そうですね、明日、事後報告で結構ですから教えてください」

「もう・・・」

「じゃあ、おやすみ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

やっぱり、N事務長が転勤したことを何処からか耳にしたのでしょうか?
でも、院長を始め、医局の主要メンバーは以前と変わりありませんから、今日、明日の処理をしっかりすることです。
明日が楽しみになってきました。

以下 ●●行き場のない患者(Tさん)のその後●● は2に続く


2010.3.25 木曜日

行き場のない患者164

医療・介護のよもやま話 — admin @ 17:39:21

●●サヨナラTさん●● 

Tさんのお願いは、きっぱりお断りして病院に戻ろうとするN事務長を、引き留めるTさんですが、そろそろ限界です。
N事務長は、Tさんと病院以外の場所で会っていることに違和感を感じて、この場から一刻も早く離れたい気持ちで頭も身も心もはち切れそうです。

「それでは、本当に、これで失礼します」

「まだ、コーヒー残ってるじゃない」

「ああ、そうですね・・・」

「コーヒーくらい、全部飲んだら?」

ここは、言うことを聞いた方がよさそうです。
「そうします」

そう言って、N事務長は冷めて冷たくなったコーヒーを一気に飲み干します。
それにしても、こんなに喉を通らないコーヒーは初めてです。
まるで、どろりとした固まり損ねたコーヒーゼリーを無理やり飲んでいるような感じです。

残り半分のコーヒーを無理やり胃に押し込みコーヒーカップを机に戻すと、Tさんと、Tさんの息子がN事務長の一挙手一投足を見つめています。
どうやら、何とも言えない飲み心地の悪さはこの4つの目玉、2人の視線が原因のようです。

「ご馳走様でした」

「じゃあ、これでお別れね」

「はい、そうです」

「O弁護士から言われたとおり、もう2度と○×病院には行かないから・・・」

「分りました」

「何だか寂しいけど・・・」

私は寂しくありません。
「そうですか・・・じゃあ、これで」

そう言って、N事務長はズボンのポケットから予め入れておいた500円玉を取り出して机の上に置くと、

「何それ?」

「私のコーヒー代です」

「いいわよ、今日、呼び出したのは私だから、私が払うわ」

「いえ、結構です」

「いいから、いいから」

「いえいえ、そういう訳にもいきません」

と、押し問答をしていると、
「オカンが出すって言ってるんやろ! 黙ってゴチになっとけや!」

全く、母親に似て、気の短い息子です。
この際、息子にも意見してやろうかと思いましたが、気持をぐっと抑えます。
ただし最後くらい、無言でTさんの息子に圧力をかけてあげることにします。
憐れみと子供は黙ってなさいという念を込めて、N事務長は視線をTさんの息子に送ります。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「何やその目は?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「オマエ、文句あんのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「アンタは黙っとき!」

「オカン、こんな奴、シバイタレや」

「ウルサイ」

「・・・」

「N事務長、申し訳ないけど、本当に今日だけはご馳走させて貰うわ、これも謝罪の内と思ってくれない?」

「そうですか・・・そこまで言われるのであれば、お言葉に甘えさせて貰います」

「そうしてや」

「ご馳走さまでした」

「いや、ええよ」

N事務長はそう言ってから立ち上がり、もう一度Tさんの息子を憐れみの目で見つめて、テーブルを後にします。
Tさんに、
「それでは、失礼します」
と声を掛けると、

「ああ、世話掛けたね・・・」
と言う、Tさんの声が背中越しに聞こえます。

ドアのガラスに映ったTさんは、息子の頭をパチンと叩いています。
子供の言葉使いに対しては厳しいんだけれど、もう少し自分にも厳しくなれないのかな・・・
サヨナラTさん。

=完=


2010.3.24 水曜日

行き場のない患者163

医療・介護のよもやま話 — admin @ 17:57:53

●●Tさんのお願いⅡ●● 

さすがTさん。
今度は病院を紹介しろだ、院長にお願いしてだとか、言いたい放題です。
でも、はっきりお断りさせて頂きます。
そもそも今日は、これまでの病院内での不始末の謝罪に来たんじゃなかったの?

「申し訳ありませんが、病院に紹介や医療に関することについては、私にはTさんのお手伝いは出来ません」

「そんなことないやろ?」

「残念ですが、出来ません」

「オマエ、オカンがお願いしとるんや! 出来ん、出来んって、どうにかせえよ!」
黙って聞いていたTさんの息子が声を張り上げます。

「ウルサイ、アンタは黙っとき!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「N事務長、ほな私はどないしたらええん?」

「それは、私にも分りません」

「どういうこと、私は病院に行きたいのに、何処にも行くところがないの」

でも、それを身から出た錆と言うんじゃなかったかな?
そもそも、本当に行かなければいけない病気なのかも分らないし・・・
「ところで、何科の病院に行きたいんですか?」

「そうね・・・出来れば総合的に何でも診てくれる病院がいいかな」

やっぱりそうですか・・・
「それじゃあ、紹介出来たとしても、紹介しようがありません」

「紹介出来るの?」

「いえ、無理です」

「なんだ・・・」

幾ら謝罪したからって、Tさんの本質に変わりはないようです。
自分の気持ち、言い分を相手を選ばずに通そうとするからこうなるんです。
相手が納得しないと、自分の気持ちの持って行き場がなくなって、相手に対して暴言や暴力を振るう。
その結果、病院に行きたくても行く場所、病院がなくなってしまう。
まさに、行き場のない患者の二乗です。

これ以上話をしていても時間の無駄ですから、そろそろ引き上げることにします。
これでTさんに会うのも最後です。
心残りは?
ありません!

「じゃあ、Tさんそろそろ病院に戻ります」

「そうなん?」

「ええ、仕事が途中ですから」

「もう少し話そうや、なんとなくN事務長とも仲良くなれそうやし」

「いえ、そんなことは・・・」

「そんなことは?」

「ははは、まあいいじゃないですか」

「これでN事務長と会うのも最後?」

「そうなりますね」

「・・・・・・・・・・・・・・」

えっ? まだ何か言いたいことがあるの?

以下 ●●サヨナラTさん●● は164に続く


2010.3.23 火曜日

行き場のない患者162

医療・介護のよもやま話 — admin @ 18:38:31

●●Tさんのお願い●● 

Tさんの頼みの綱であるO弁護士から、N事務長に謝罪をしてきなさいと言われたTさんは、息子を連れてN事務長を呼び出します。
自分は日本国籍ではないとか、O弁護士も同胞であるとか、N事務長には全く興味のない話をしますが、最終的にはすみませんでしたと謝罪をしました。
しかし、謝罪をされたところで、どうして謝罪しなければならないのかさっぱり意味が分らない息子まで連れてきて、息子は何でオレまで謝るのとその表情に出ていることに、N事務長は困惑気味です。
兎に角、Tさんも目的は果たしたことでしょう。
これでいよいよ、Tさんともお別れだと思っていると、

「じゃあ、これで・・・」

「もう少し、時間いい?」

「はあ、何でしょうか?」

「O弁護士からも言われたから、○×病院にはもう行けないし、行かないつもりだけど・・・」

そうお願いします。
「はい・・・」

「病院、何処か紹介して貰えない?」

「病院を紹介ですか?」

「行く病院が無いの・・・」

「今、××病院に行ってるんじゃないんですか?」

「あの病院は何かと煩いの!」

「何かと煩いとは、どういうことですか?」

「病院の規則だから、これはダメ、あれもダメ、それはするなって・・・」

「でも、病院の規則は何処の病院にだってありますよ」

「それにしても、××病院は煩さ過ぎるの」

確かに、××病院さんは、キリスト教系の病院で、看護部長はやかましい人で有名だけれど・・・
「そうですか・・・でも、他の病院の規則をどうのこうのと言うわけにはいきません」

「だから、N事務長の知っている病院を紹介してくれない?」

いや、Tさんを紹介なんて、申し訳ありませんが出来ません。
ここは、上手くお断りさせて頂きます。
「私は、単なる事務屋ですから、事務屋が病院を紹介することは出来ないんです」

「そんなことないやろ、事務長で知り合いは居るやろ?」

「ところが、そうでもないんです」

「ホンマか?」

「ええ、最近は病院の紹介も分業化が進んでいまして、医師間、或いは患者さまの社会的なお世話をするMSWとか、医療連携室が、そういう仕事をしています」

「そうなの?」

「はい、そうです」

「じゃあ、そのMSWとか、医療相談室に聞いてよ」

「彼等は医師の指示のもと、患者さまに一番いい、つまり患者さまにとって出来うるかぎりメリットのある病院を探しますので、医師からの指示がないことには、単独では動けないんです」

「じゃあ、院長とかにお願い出来ない?」

「院長に何をお願いするんですか?」

「その、MSWとか医療相談室に一言、言ってくれないかな?」

「無理だと思います」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

やっぱり、何があってもTさんはTさんです。
言いたいことは、はっきり言う。
それがどんなに相手にとって、不条理なことでも言ってみる。
そういう人なんです。

以下 ●●Tさんのお願いⅡ●● は163に続く


2010.3.22 月曜日

行き場のない患者161

医療・介護のよもやま話 — admin @ 16:56:41

●●Tさんの話Ⅲ●● 

同胞であり、いつでも味方になってくれた、心の拠り所であるO弁護士から叱られたと、照れながら、可愛らしく話すTさんですが、どんな風に叱られたのでしょうか・・・
もう少し詳しく聞いてみましょう。

「O弁護士から何を叱られたんですか?」

「私達のしたことは、どう考えても許されない行為だと・・・」

まあ、法的に考えれば当然でしょう。
「許されないですか・・・」

「時間をおいて、N事務長に謝罪するべきだと・・・」

謝罪ですか・・・それが今日の目的なんだ。
「そうですか・・・何の謝罪ですか?」

「病院内で暴力を振るったことに対してかな?」

やっぱり、あの写真が決め手になったようです。
「ああ、そのことですか」

「よく、N事務長が警察沙汰にせずに我慢していると言ってました」

別に我慢しているんじゃなくて、面倒なだけです。
「ふーん、そうですか」

「逆に訴えられたら、到底勝ち目は無いって・・・」

さすがO弁護士! そのとおり!
「まあ、そうなるでしょうね」

「まだ病院内で、この問題の取り扱いの最終判断が決まってないようだから、決まる前にきちんと謝罪、謝って来いと言われました」

謝罪しなくてもいいから、もう病院に顔を出さなければ許します。
「そうですか・・・」

「それと、今回の件を表沙汰にしないようにお願いして来いとも言われました」

普通、代理人であるO弁護士がすることなのに、お金にならないし、時間も無駄だし、Tさんの教育の為にそう諭したのでしょうか?
「なるほど」

「それで、どう?」

どう、って?
何でそこだけ、しなを作って聞くの?
どうでしょうか? お許し頂けますか? ってのが普通でしょ!
でも、間違ったプライドが異常に高いTさんにこれ以上望むことは無理でしょう。
変に刺激して、逆切れされてもしょうがありませんから、ここはそのままTさんの望みを受け入れることにします。

ほらほら、やっぱりTさんの息子は話の流れに納得出来ないようで、ムスッとした顔している・・・
オカン、何で、こんな奴に謝るんだよって、顔にマッキーの太いペン先くらいのしっかりした筆圧で書いてあります。
解り易い・・・
まだ子供だから、引きどころが解らないのでしょう。

「いいですよ」

「いいですよってことは、許してくれるわけ?」

「ええ」

「じゃ謝るわ」

そう言うと、Tさんは息子の頭に自分の手を持っていき、息子の頭を押さえ付けるようにして自分も頭を少しだけ下げます。
「すみませんでした。 ほら、アンタもすみませんって言いな!」

「・・・ませんでした」

「どういたしまして」

Tさんの息子は何でオレが謝らなければいけないんだという不服そうな顔をしていますが、Tさんに頭を押さえ付けられて、その手から逃れられません。
T家では、オカンの命令には絶対服従なのでしょう・・・

以下 ●●Tさんのお願い●● は162に続く


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