行き場のない患者145
●●O弁護士Ⅵ●●
N事務長が、Tさんが病院で診療を受ける際に要求する内容を掻い摘んでO弁護士に話をすると、O弁護士は何やら思案気な表情に変わります。
O弁護士は何か考え事をする時に、頭を少し右に傾ける癖があるようで、O弁護士の顔を正面から見ると、目はN事務長を見つめたまま口を真一文字に結んで、頭だけ15度程、斜めになっています。
「お解り頂けましたか?」
とN事務長が問いかけると、O弁護士は頭を元に位置に戻して質問を再開します。
「○×病院さんでは、その過換気症候群ですか・・・その根本的な治療が出来ない。ましてや対処療法で依存性が認められる薬を毎回処方することは出来ないということですね」
「そのとおりです」
「そのことは、Tさんご本人にお話されましたか?」
「ええ、2度、話ました」
「2度?」
「1回目は治療が終わった後、付添の今一緒に住んでいらっしゃる男性立会のもと、治療にあたった当院の内科部長から。そして2度目は、病院に話し合いに来られた時に、付添人、確か、お子さんも含めて9人位いたかな?・・・皆さんの前で、当院の院長がお話をさせて頂きました」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「O弁護士は、そのことお聞きじゃありませんか?」
「2度、その回数のことは・・・こちらの院長先生から、○×病院ではTさんを診られない。もう診察は出来ないと言われたとしか聞いていません」
「なるほど・・・」
「他にも何かありましたか?」
「一度目に内科部長からお話をさせて頂いた時には、私も看護部長も同席させて頂きましたが、専門病院への紹介状もお出しさせて頂きました」
「医療的には、出来うることをしたということですね」
「ええ」
「そうですか・・・他にも何かありますか?」
よし、チャンスだ。 今O弁護士は、この依頼を受けるか否か、頭の中で計算を初めている・・・
「まあ、無いと言えば嘘になります・・・」
「なんですか?」
「これについては、今院内でどのような対応を取るか検討中ですから・・・」
「対応?」
「はい。O弁護士と同業の方にお願いするかどうか・・・」
O弁護士の目が困ったように、何度かパチクリと閉じたり開いたりしています。
「私と同業?」
「はい」
「何ですか? こちらの病院で誰かに何かしたんですか?」
「誰かと言われましても・・・」
「器物破損?」
「それもあります・・・」
「それもですか・・・他には?」
「当事者がそんなに問題を大きくしてもしょうがないと思っていますので・・・」
「当事者ということは、やはり・・・暴力行為ですね」
「そうですけれど・・・」
「誰にですか? 院長先生にですか?」
「院長ではありません」
「内科部長の先生にですか?」
「違います」
「看護師のどなたかにですか?」
「それも違います」
「じゃあ、誰ですか?」
N事務長はゆっくりと膝の上に置いていた右手をテーブルの上に出し、人差し指を自分の鼻に当てます。
「N事務長?・・・」
N事務長はO弁護士の目をしっかりと見据えながら、大きく頷きます。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
以下 ●●O弁護士Ⅶ●● は146に続く