●●Bさんのご主人来院●●
お節介コンビのW議員とD地区のC地区長は、N事務長の予想を遥かに超える活躍を見せて、Bさんのご主人に連絡まで取ってくれました。
今回は、彼等の置かれた立場上の使命に基づいた行動ですから、見返りは病院見学だけで済みました。
W議員には、また来年の選挙の時に応援すると約束すればいいでしょうし、C地区長には今後C地区長が紹介してくるだろう、C地区長の知人の受診の際に多少なりとも気を使えば済むことです。
気を使うと言っても、N事務長が挨拶に伺う程度のことで、事が足りるのは周知の事実。
そのくらいのことは、喜んでさせて頂きます。
お節介コンビに丁重に挨拶をして、見送ったのは午後2時でした。
Bさんのご主人に連絡がついたのが午後1時半で、○×病院に到着するのに2時間くらい掛かるということでしたから、Bさんのご主人の病院到着は時間通りだと午後3時半、遅くても午後4時には到着することでしょう。
それまでの間に、救急隊長にも連絡を入れておくことにします。
隊長の勤務する○×署に電話をすると、幸いなことに出動中でなく、待機中でした。
「隊長、今日の朝はお世話になりました」
「とんでもない、○×病院にまた迷惑を持ちこんでしまったって、さっきも消防司令と話をしていたんだ」
「迷惑? そんなこと思ってませんから・・・お互いさまです。運命共同体です」
「そう言ってくれて助かるよ」
「いえいえ、患者さまを連れてきて頂けるわけですから、こんなに有り難いことはありません」
「○×市内の他の病院もそうなってくれるといいんですが・・・」
「そうですね、救急受入は医局とか看護部の協力がないと中々上手くいきませんからね・・・経営陣が救急受入を要望しても、受け入れるのは現場の医師、看護師ですし・・・」
「○×市内に、そんな病院が1つでもあることに救われてます」
「どういたしまして」
「それで、今朝のBさんの件でしょ?」
「そうそう、そうなんです」
「進展ありましたか?」
「ええ、おかげ様でW議員とC地区長の尽力で、Bさんのご主人に連絡がつきました」
「そう、それは良かった」
「ご心配されてるんじゃないかと思って、連絡させて頂きました」
「わざわざ有難う」
「どういたしまして」
「それで、ご主人はもう病院に来たの?」
「いえ、16:00迄には来られると思います」
「16:00? 随分ゆっくりだね?」
「まあそうですが・・・来るだけましだと思うことにしました」
「そうだよな・・・他人の家のことに首を突っ込むとロクなことにならないからね」
「やっぱりそうですか?」
「そうそう、家族に余分な一言を言ったが為に、議会で問題になった救急隊員もいるくらいだよ」
「ハハハ、こちらが常識的なことを言っても、通じない方々は世の中に五万どころか山ほどいるわけですね」
「そのとおり」
「また、何か進展がありましたらご連絡します。取りあえず、患者さまはBさんの奥さんであると確認したこと報告しておきます」
「サンキュウ。報告書も “名無しの権平” から “Bさん” に書き変えておきます」
「お願いします」
そんなやり取りをした後は、医事課や病棟にBさんのご主人が来たら連絡を入れるように伝えて通常業務に戻ります。
しかし、1時間が過ぎ、2時間が過ぎても医事課からも病棟からもBさんのご主人が来院したとの連絡は来ません。
連絡をするのを忘れているのかと思い、医事課や病棟に確認の電話を入れるものの、返ってくる答えは 「まだいらっしゃっていません」 という言葉です。
どうなっているのか・・・まさか来ないのかも?
そんな思いがふと脳裏に浮かびます。
業務の合間に何度目かの時間確認をすると、もう18:00を回っています。
そろそろしびれが切れてきました。
C地区長から念の為に教えて貰った、Bさんのご主人の携帯電話に連絡を入れようとかと思っていると、内線電話が掛かってきました。
内線電話先を示す番号は、内科病棟です。
多分、いや間違いなくBさんのご主人の件だと思って祈るように内線電話に出ると、
「はい、Nです」
「内科病棟ですが、今、Bさんのご主人が来られました」
「了解です。普段通りに入院手続きをお願いします」
「はい」
「私も今から様子を見にいきます」
「お願いします」
予定よりも2時間半遅れでの到着ですが、まずはBさんのご主人が病院に来られて一安心です。
以下 ●●Bさんのご主人●● は18に続く