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医療・介護のよもやま話

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2010.4.30 金曜日

家族の形23

●●病室にてⅢ●● 

N事務長を病室の外、廊下に残してBさんの奥さんの主治医であるE内科部長は病室に入っていきました。
中では、病棟師長からBさんのご主人に主治医としてE内科部長を紹介したようです。

「主治医をさせて頂きます、Eです」

「Bです・・・」

「それでは、2、3説明と質問をさせて頂きます」

「はい・・・」

「奥さんは、栄養状態が悪かった為に、全ての生命を維持する器官の状態が芳しくありません」

「はあ・・・」

「もちろん、今、現段階で生命がどうのいうことはありませんが、決して楽観出来る状態ではないとお考えください」

「はい・・・」

「ただし、全身状態をよく観察しながら必要な処置をすれば、かなりの確率で元の状態に戻ると考えております」

「元の状態?」

「ええ」

「そうですか・・・」

「まあ、私の言う元の状態ですが、それはご主人の考えている状態と相違があってはいけませんからこれから質問をさせて頂きますけれど、よろしいでしょうか?」

「答えられる範囲ならば・・・」

「奥さんの既往歴をお聞きしたいんです」

「既往歴ですか・・・」

「ここ1年の間に病院には罹りましたか?」

「いえ、罹ってないと思います」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「何か?」

「それでは、ここ数年では?」

「いえ、罹ってないと思います」

「・・・本当ですか?」

「ええ、多分・・・」

「言いにくいのですが、奥さんは寝たきりの状態でしたよね」

「ええ」

「それはいつからですか?」

「ここ2、3か月のことです」

「正確には何時からか分かりますか?」

「多分・・・4月のことだと思うけど・・・」

「その時にどうされたんですか?」

「何だか体の右側が上手く動かない、痺れてるとか言って布団引いて、寝て、そのままですか・・・」

「布団に寝て、そのまま?」

「ええ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

以下 ●●Bさんのご主人の告白●● は24に続く


2010.4.29 木曜日

家族の形22

医療・介護のよもやま話 — admin @ 16:31:24

●●病室にてⅡ●● 

Bさんのご主人と病棟師長が病室の中へ入ったのを確認すると、N事務長はBさんの奥さんの入院している個室の前まで移動します。
個室のドアは開いたままになっているので、中から2人の声が聞こえるはずです。
案の定、中からは2人の会話が聞こえてきました。

「Bさん、そんなところに立っていないで、もっとベッドに近寄ってください」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「何か仰った」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「Bさん、ご主人が心配して来てくれたわよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「あら、ご主人が来たこと分っているようよ! 何だか顔が微笑んでいるし、声は出せないけれど頷いているわよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「Bさん、手ぐらい握ってあげたら?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「もう、逃げないで! 奥さんのことよく見てあげれば!」

どうやら、病室の中では病棟師長の独壇場のようです。
病棟師長の様子からすると、Bさんのご主人は部屋に入ったけれども隅の方でじっとしているみたいです。

病室の中の2人の会話を耳を欹てて聞いていると、誰かがN事務長の肩を叩きました。
N事務長が振り返ると、そこにはBさんの奥さんの主治医であるE内科部長が立っています。
E内科部長はN事務長を不審者でも見るかのように、横目で見ながら、

「N事務長、何してるんんですか? 変ですよ!」 
と他人に聞こえないように、小さい声で囁きます。

N事務長は、部屋の中を右手親指で指し示しながら、
「どうもご主人の様子が普通じゃないので、様子を伺ってました」 
と、これまた小さな声で答えます。

「医事課に聞いたけれど、何だか入院手続きが終わったら帰ろうとしたんだって?」

「そうなんです」

「どういうこと?」

「さっぱりわかりません」

「奥さんに会いたくない理由でもあるのかな?」

「夫婦だけが知っている理由ですか?」

「そうだけど・・・でも、そういうことには立ち入れないし、立ち入らない方がイイよね」

「先生の判断にお任せします」

「ああ、治療に関して聞かなければならないことだけは聞くつもりです」

「ええ、私もここから中の話を聞かせて頂きます」

「そうしてください」

E内科部長はそう言うと、開いているドアをノックして、「失礼します」と言いながら病室の中へ入っていきました。
中では、病棟師長がE内科部長をBさんのご主人に紹介しています。
E内科部長はならば、このBさん夫婦の微妙な関係のヒントを、Bさんのご主人から、何か聞き出してくれるかもしれません。

以下 ●●病室にてⅢ●● は23に続く


2010.4.28 水曜日

家族の形21

医療・介護のよもやま話 — admin @ 13:05:26

●●病室にて●● 

病棟師長に腕を掴まれて立ち上がったBさんのご主人は、渋々と言った表情で抵抗するべくもなく病棟師長の動きに同調して奥さんの入院している病室へ向かおうとしています。
一瞬、病棟師長はN事務長へ振り返って、ウィンクとも取れない目配せを送りました。
それまでナースステーションの奥で、2人のやりとりを気配を消して見ていたN事務長も病棟師長の目配せで動きを再開します。
N事務長は、2人に近付いていき、Bさんのご主人におもむろに話しかけました。

「お待ちしていました。Bさんのご主人ですね」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ナースステーションの奥で気配を消していたN事務長から突然声を掛けられてBさんのご主人は、ギクリとして声を掛けられたN事務長を見つめます。

「あーすみません。申し遅れました事務長のNです」

「事務長さん?」

何故ここに事務長がいるのかを不思議に思ったのかBさんのご主人は怪訝な表情をしています。
Bさんのご主人のその疑問に答えるかのように病棟師長が間に割ってはいります。

「Bさんに連絡をつける方法が分らなかったので、N事務長に頼んで調べて頂いたの」

「・・・それで、C地区長から電話があったのか・・・」

「出過ぎたマネをしたかもしれませんが、入院をするにあたって、ご家族の了承が必要でしたので、あの手この手で連絡を取らせて頂きました」

「・・・そうですか・・・」

「どうぞ奥様の病室へ行って、奥様を励ましてあげてください」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

余分なことを言いやがるとでもいうような一瞥をN事務長にくれたBさんのご主人は、病棟師長へ振り返って、

「さあ、用事を済ませましょう」
と言い放ちます。

用事?
奥様の病室に行くことが、Bさんのご主人にとっては、単なる用事のようです。
やっぱりこの夫婦には、夫婦にしか分からない何かがあるのでしょうか?

N事務長は、病棟師長に目配せを返して2人を見送ります。
病棟師長はまだ安心出来ないのか、Bさんのご主人の腕を持った手を離そうとはしません。
2人がナースステーションから見えなくなってからN事務長は2人の後を追いかけます。
ナースステーションからBさんの奥さんの入院している個室フロアーとの間にはコーナーがあるので、そのコーナーに身を潜めて2人の様子を伺うと、2人がBさんの奥さんの病室の前で何やら話をしています。

「Bさん何をしているの? 早く入りましょう」

「いや、ここで見れば分るから」

「何を言ってるの?」

「妻の顔は見なくても、今、どんな状態なのかはわかるから・・・」

「どうしてそんなことを仰るの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「さあ、入りましょう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「さあ、早く・・・入るわよ」

そう言って病棟師長は、開け放たれた個室のドアから無理やり引きずり込むようにBさんのご主人の腕を引っ張りはじめます。
Bさんのご主人の左腕が病棟師長の姿とともに病室に入り、その腕が出たり入ったりを繰り返した後、グイっと引っ張り込まれるようにBさんのご主人の体が病室の中へと消えました。

この往生際の悪さは一体何?

以下 ●●病室にてⅡ●● は22に続く


2010.4.27 火曜日

家族の形20

●●看護師長のお説教●● 

病棟師長に力ずくでナースステーション内のパイプ椅子に座らされたBさんのご主人ですが、気を取り直したのか開き直ったのか、背筋をピンと伸ばしてお洒落なオジサマに戻ったかのように感じます。

「それにしても、凄い力ですね」
そう言って、Bさんのご主人はジャケットの上から病棟師長に掴まれていた左腕をさすっています。

「どうしてお帰りになるんですか?」
Bさんのご主人の言葉を無視して、病棟師長はまくしたてます。

「いえ、帰るんじゃなくて、喉が渇いたからジュースでも飲もうと思いまして」

「この期に及んで、まだしらを切るんですか?」

なんだか、刑事の取り調べみたいになってきました。

「そんなに恐い声を出さなくても結構です」

「恐い声? 申し訳ありませんが、これで普通の声です」

「それは失礼しました」

「Bさんしっかりしてください」

「私はいたってしっかりとしているつもりです」

「それならば、奥様の状態を認識して、これからどうすればいいのか一緒に考えていきましょう」

「そうですか・・・病院の方で一番いいと思われる方法を取って頂ければ結構です。こちらの病院でされる医療行為に対して、私は素人ですから、異論を唱えるつもりも意見を言うつもりもありません」

「そういうことではありません」

「どういうことですか? 入院費についても、しっかりお支払いさせて頂きます」

「そうじゃなくて、身内の方が一緒に病気と闘って頂きたいと思っているんです」

「ええ、ですから病院の治療方針に口も出しませんし、入院費も個室料金を含めて、しっかりお支払いさせていただきます」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「何か問題でもありますか?」

傍から聞いていても恐い声を出していた病棟師長が、フーと息を吐きだします。
更に気を引き締めたのか、目尻をキッと上げてBさんのご主人を睨みつけます。

「問題大ありです」

病棟師長のパワーアップした剣幕に、Bさんのご主人も少々ゲンナリしてきたようです。
「だったらどうすればいいんですか?」

「これから奥さんの病室に行って、奥様の様子を見て頂いて、その後、主治医の治療方針を聞いて頂きます」

「わかりました・・・それだけでいいんですね」

「・・・ええ、ただし、病状説明や治療方針をお話させて頂きますが、どうしてこのような状態になったのかをご家族である貴方にお聞きします」

「お聞きしますと言われても・・・見たまま、病院が考えるとおりだと思います」

「そうですか、それでは今から主治医を呼びますので、お話はその時にお聞きしましょう!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

病棟師長は、いまだ固まったままの医事課入院係へ振り返り、 「主治医のE内科部長を呼んで」 と命じます。
医事課入院係は、病棟師長の声で身体の緊張を解き内線電話でE内科部長を呼び出します。

「E先生が来たら、Bさんのお部屋にお願いします」

病棟師長は医事課入院係にそう言って、再びBさんのご主人の腕を掴みます。

「さあ、一緒に行きましょう。 ジュースはお話が終わってからにしてください」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

以下 ●●病室にて●● は21に続く


2010.4.26 月曜日

家族の形19

医療・介護のよもやま話 — admin @ 17:47:17

●●Bさんのご主人と病棟師長●● 

奥さんの病室へ案内するという病棟師長の言葉を無視して、つい先ほど乗って病棟に上がってきたはずのエレベーターホールに向かうBさんのご主人。
Bさんのご主人の突然の行動にそれまでカウンター越しに入院説明をしていた医事課入院係とその背後で様子を見守っていたN事務長は口を開けたまま固まっています。

本来ならば、この後、病室で奥さんと対面して、せめて 「遅くなってゴメンね」 と言葉を吐くのがセオリーでしょ?
そして、主治医から今後の治療方針の説明があって、「どうでしょうか? 元気になりますか?」 と聞いて欲しいものです・・・

フリーズしている2人に反して、病棟師長は機敏な動きを見せました。
Bさんのご主人と反対の方向へ向いていた身体をUターンさせて、Bさんのご主人の元へ駆け寄ります。

「Bさん! どちらへ行かれるの? 奥さんの病室はそちらじゃありませんわ」

「はあ・・・」

「さあ、こちらです」

病棟師長はそう言うと、傍から見ても分るほどの力でBさんのご主人の腕を掴み、ナースステーションまでBさんのご主人を引きずりだします。

「痛い、痛い。 手を離してください」

「ダメです。こちらにお越しください」

「分りました。分りましたから、もう少し力を抜いてください」

「力は抜きますけれど、手は離しません」

「はい、そうお願いします」

看護師の腕力は恐るべき力です。
どんなにか細く見える腕でも、その組成は筋肉オンリーなんです・・・
N事務長に、以前ふざけて病棟内勝ち抜き腕相撲に興じて、病棟看護師全員に完敗した記憶が蘇ります。

「さあ、こちらに座ってください」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「さあ、早く!」

病棟師長はそう言って、掴んでいる手とは別の手でナースステーション内のパイプ椅子を指さします。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

それでも、立ち尽くすBさんのご主人の腕を病棟師長は下に引き下げて強引に座らせようとします。

「痛い、痛い・・・」

「痛いんだったら、座ってください」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「さあ、早く!」

Bさんのご主人は諦めたかのような表情を見せて、病棟師長に指し示されたパイプ椅子に腰を下ろします。
その姿を確認すると、してやったりといった顔をした病棟師長はBさんの腕から自分の手を離しました。

「Bさん、まだお話は終わっていません」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「これから、奥さんの姿を見て頂いて、その後に主治医から治療方針の説明を受けて貰います」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「よろしいですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうなんですか!」

「わ、分りました・・・」

そう言ったBさんのご主人は困惑した表情をしています。
ピンとその先を真横に張っていた口髭と棒タイも、Bさんのご主人の気持ちの表れなのか、先程より心なしか下に垂れ下がっているように見えます。

以下 ●●看護師長のお説教●● は20に続く


2010.4.25 日曜日

家族の形18

医療・介護のよもやま話 — admin @ 10:52:47

●●Bさんのご主人●● 

Bさんのご主人が自己申告した予定時間から遅れること2時間半、18:00にGさんのご主人は病棟に現れました。
N事務長が表に出てあーだこーだと言ってもしょうがありませんので、事務的手続きは病棟の看護師や事務員に任せて、どんな人なのか、それとなく顔だけ見に行くことにします。

内科病棟に歩いていくと、ナースステーションの前でカウンター越しに病棟医事課職員と向き合っているダンディな男性がいます。
あれがBさんのご主人でしょうか?
揃いのスーツではなく、茶系に深緑の生地を織り込んだ品のいいジャケットにパンツを合わせたお洒落な井出達をしています。
Bさんのご主人が医事課職員の説明に頷きながら、何枚もの入院関連書類にサインをしているのを横目にN事務長はナースステーションに入っていきます。
まだ病棟師長が残っていたので、N事務長はBさんのご主人と病棟師長を結ぶ線の間に入ってBさんのご主人の死角になるように背中を向けて、右手親指で後ろの男性を刺して病棟師長に “Bさん?” と声を出さずに口の動きだけで聞いてみます。
病棟師長はそれに応えて “そう” と口元を動かしながら小さく頷き返します。
N事務長は、さりげなくBさんのご主人の方に振り返って再び観察をすると、Bさんのご主人は血色もよく、ロマンスグレーの髪の毛は綺麗に整えられており、口髭をたくわえ、胸元は棒ネクタイでまとめています。
その姿は、ファッション誌から抜け出てきたかのようで、一寸の乱れもありません。
ダンディー、まさにこの言葉はBさんのご主人の為にあると言っても過言ではないでしょう。

その時N事務長は、心の中に何かざわざわとした疑念が湧き上がってくるのを感じました。
Gさんの奥さんの、まるで路上生活者のような身体の汚れや匂いと、ご主人の一寸の乱れもないダンディーな装いとのギャップ。
奥さんの、C地区長曰く、以前と別人のように痩せこけた頬と、血色のいいご主人の顔のギャップ。
救急隊長から聞いた、荒れ果てた家の中の様子と、コザッパリとして清潔感溢れるご主人のギャップ。
家族、特に夫婦は一緒に暮らす時間が長くなればなるほどに、考え方もライフスタイルも、更には顔付きまで似てくるはずです。
夫婦でここまで雰囲気が違うのは何故?
奥さんは栄養失調で生死に関わるほど衰弱しているのに、ご主人は同じ世代の人達と比べて、どう見ても元気はつらつ、人生を謳歌しているようにしか見えません。
単に病気を患っているのと、患っていないことだけでは説明の出来ない2人の違いが歴然と存在します。
何故? どうして? 何か変・・・
とう言うよりも、絶対に変です。

どうやら、入院手続きは滞りなく終了したようです。
個室の入院費用も問題なしのようです。
遠巻きにその様子を見ていると、病棟師長がBさんのご主人に近付いていき声を掛けました。

「それではBさん、奥さんのお部屋へご案内します」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうぞこちらへ」

病棟師長はそう言いながらナースステーションを出て、個室フロアーに向かおうとしますが、Bさんのご主人はカウンターの前から動こうとしません。

「どうされましたか?」
と聞く病棟師長に、

「・・・・・・・・・・・・・・・」
無言を貫くBさんのご主人。

どうしたのでしょうか?
Bさんのご主人は、病棟師長の言葉に反応せず、微動だにしません。
耳が遠くて、病棟師長の声が聞こえないのでしょうか?
視線はナースステーションに向けたまま、病棟師長を見ていません。
あっけに取られている、ナースステーションの中にいる医事課職員に微笑みながら 「宜しくお願いします」 と頭を下げ、そして、病棟師長を無視してエレベーターホールの方へ歩き出します。

?????

以下 ●●Bさんのご主人と病棟師長●● は19に続く


2010.4.24 土曜日

家族の形17

医療・介護のよもやま話 — admin @ 15:57:56

●●Bさんのご主人来院●● 

お節介コンビのW議員とD地区のC地区長は、N事務長の予想を遥かに超える活躍を見せて、Bさんのご主人に連絡まで取ってくれました。
今回は、彼等の置かれた立場上の使命に基づいた行動ですから、見返りは病院見学だけで済みました。
W議員には、また来年の選挙の時に応援すると約束すればいいでしょうし、C地区長には今後C地区長が紹介してくるだろう、C地区長の知人の受診の際に多少なりとも気を使えば済むことです。
気を使うと言っても、N事務長が挨拶に伺う程度のことで、事が足りるのは周知の事実。
そのくらいのことは、喜んでさせて頂きます。

お節介コンビに丁重に挨拶をして、見送ったのは午後2時でした。
Bさんのご主人に連絡がついたのが午後1時半で、○×病院に到着するのに2時間くらい掛かるということでしたから、Bさんのご主人の病院到着は時間通りだと午後3時半、遅くても午後4時には到着することでしょう。
それまでの間に、救急隊長にも連絡を入れておくことにします。
隊長の勤務する○×署に電話をすると、幸いなことに出動中でなく、待機中でした。

「隊長、今日の朝はお世話になりました」

「とんでもない、○×病院にまた迷惑を持ちこんでしまったって、さっきも消防司令と話をしていたんだ」

「迷惑? そんなこと思ってませんから・・・お互いさまです。運命共同体です」

「そう言ってくれて助かるよ」

「いえいえ、患者さまを連れてきて頂けるわけですから、こんなに有り難いことはありません」

「○×市内の他の病院もそうなってくれるといいんですが・・・」

「そうですね、救急受入は医局とか看護部の協力がないと中々上手くいきませんからね・・・経営陣が救急受入を要望しても、受け入れるのは現場の医師、看護師ですし・・・」

「○×市内に、そんな病院が1つでもあることに救われてます」

「どういたしまして」

「それで、今朝のBさんの件でしょ?」

「そうそう、そうなんです」

「進展ありましたか?」

「ええ、おかげ様でW議員とC地区長の尽力で、Bさんのご主人に連絡がつきました」

「そう、それは良かった」

「ご心配されてるんじゃないかと思って、連絡させて頂きました」

「わざわざ有難う」

「どういたしまして」

「それで、ご主人はもう病院に来たの?」

「いえ、16:00迄には来られると思います」

「16:00? 随分ゆっくりだね?」

「まあそうですが・・・来るだけましだと思うことにしました」

「そうだよな・・・他人の家のことに首を突っ込むとロクなことにならないからね」

「やっぱりそうですか?」

「そうそう、家族に余分な一言を言ったが為に、議会で問題になった救急隊員もいるくらいだよ」

「ハハハ、こちらが常識的なことを言っても、通じない方々は世の中に五万どころか山ほどいるわけですね」

「そのとおり」

「また、何か進展がありましたらご連絡します。取りあえず、患者さまはBさんの奥さんであると確認したこと報告しておきます」

「サンキュウ。報告書も “名無しの権平” から “Bさん” に書き変えておきます」

「お願いします」

そんなやり取りをした後は、医事課や病棟にBさんのご主人が来たら連絡を入れるように伝えて通常業務に戻ります。
しかし、1時間が過ぎ、2時間が過ぎても医事課からも病棟からもBさんのご主人が来院したとの連絡は来ません。
連絡をするのを忘れているのかと思い、医事課や病棟に確認の電話を入れるものの、返ってくる答えは 「まだいらっしゃっていません」 という言葉です。
どうなっているのか・・・まさか来ないのかも?
そんな思いがふと脳裏に浮かびます。
業務の合間に何度目かの時間確認をすると、もう18:00を回っています。
そろそろしびれが切れてきました。
C地区長から念の為に教えて貰った、Bさんのご主人の携帯電話に連絡を入れようとかと思っていると、内線電話が掛かってきました。
内線電話先を示す番号は、内科病棟です。
多分、いや間違いなくBさんのご主人の件だと思って祈るように内線電話に出ると、

「はい、Nです」

「内科病棟ですが、今、Bさんのご主人が来られました」

「了解です。普段通りに入院手続きをお願いします」

「はい」

「私も今から様子を見にいきます」

「お願いします」

予定よりも2時間半遅れでの到着ですが、まずはBさんのご主人が病院に来られて一安心です。

以下 ●●Bさんのご主人●● は18に続く


2010.4.23 金曜日

家族の形16

医療・介護のよもやま話 — admin @ 17:54:34

●●Bさんのご主人の反応●● 

C地区長にBさんのご主人の反応を聞くと、奥さんが救急搬送されたにも関わらず大して驚いた様子ではなかったといいます。
ここは、もう少し電話中のBさんのご主人の様子を詳しく聞いてみることにします。

「それで、どんな様子でしたか?」

「言われてみればそうだな、私が同じ立場だったら、もっとアタフタとするかもしれない・・・」

今まで黙っていたW議員が口を挟みます。
「一緒に暮らしていて、奥さんの身体の状態が悪いことを知っていたからじゃありませんか?」

「そうだな・・・そうだからこそ、そんなに驚かなかったのかな」

「それは言えますね・・・ところでC地区長、最初にBさんのご主人に電話を掛けた時はどんな様子でしたか?」

「誰?って感じだった」

「確か、その後C地区長と名乗られましたよね」

「ああ、そしたらCが何の用、誰に携帯番号を聞いたんだという対応だった」

「それで、携帯番号の出所を教えたわけですね」

「そういうことだ」

「その出所を聞いた時のBさんのご主人の反応は如何なものでしたか?」

「なるほどって感じで、沈黙していました」

「そうですか・・・その後、今何処にいるのかを聞いたら用件は何だと聞かれたわけですね」

「その通り」

「用件はBさんの奥さんが救急搬送されたことだと言った時にはどんな反応でしたか?」

「今、思い返してみると、何でそのことを私から聞かされるのかって感じだったような気がしてきた」

やっぱりそういうことですね・・・
「なるほど、C地区長はそう感じられたわけですね」

「と言うことは、C地区長が電話をする前から、Bさんのご主人は奥さんが救急搬送されたことを知っていたってことにならない?」

W議員も流石、市議会議員。
ことを、深読み、裏読みすることが得意なようです。
救急隊長から聞いたことを言ってもしょうがありませんし、ことを大きくするのは得策ではありませんので、W議員の発言はスルーしておきましょう。

「そんなことは無いんじゃないですか? 
突然のことで驚くというよりは、顔は知っていても普段あまり懇意にしていないC地区長から、番号も知らないはずなのに自分の携帯電話に電話が掛かってきたことの方にびっくりされただけなんでしょう」

「そうだといいが・・・」

「まあ、そう思いたいですね・・・」

おやおや、お節介2人組はBさんのご主人の言動に疑念を抱き始めたようです。
生来のお節介癖が出てこないうちに、話を切り上げたほうが良さそうです。
今のN事務長の使命は、Bさんの奥さんの保険証を確認して、あとは入院費の確保なんですから・・・

「すみません。何だかお2人に余分なご心配をお掛けしてしまったようです。でも、今必要なのはBさんのご主人に病院に来て頂くことです」

「そういうことだな。他人の家族のことに首を突っ込んでもしょうがないしな」

「C地区長の仰るとおりですね」

「また、何か進展がありましたらご連絡させていただきます」

「ああ、何か不都合なことでもあったらいつでも言ってください」

「ありがとうございます」

「これ、連絡先だから」

そう言って、C地区長は背広の内ポケットからお餅のように膨らんだ名刺入れを取り出して、名刺を一枚N事務長に手渡します。
その名刺は、肩書だけで名刺の半分以上を占める、俗に言う自己満足肩書名刺でした・・・

以下 ●●Bさんのご主人来院●● は17に続く


2010.4.22 木曜日

家族の形15

医療・介護のよもやま話 — admin @ 16:34:13

●●Bさんのご主人に電話●● 

お節介コンビの雄、G地区で自他ともに認める世話役のC地区長は、知り合いのメガバンク銀行マンに電話を入れてBさんのご主人の携帯電話番号を手に入れ、その携帯電話番号を書いたメモをヒラヒラさせながら、これからこの番号に電話をするとN事務長に宣言しました。
ここは、善意の第三者を装ってC地区長に連絡をして貰うことをN事務長は選択します。

「じゃあ、早速電話するよ」

「お願いします」

一旦閉じていた携帯電話を再び開いてC地区長は器用に太い右手親指でキー操作をします。
C地区長が携帯電話を左手に持ち替えて、携帯電話を耳と口に持っていってから、5秒、10秒と時間が過ぎていきます。
居留守? 着信拒否?
C地区長が携帯電話を耳と口に持っていってから15秒は経ったでしょうか・・・

「もしもし、Bさんですか?」

携帯が繋がったようです。
「突然すみません。私、G地区の地区長をしておりますCです
 ・・・こんにちわ
 ・・・この番号は、M銀行のY氏に教えて貰いました
 ・・・今、どちらにおられますか?
 ・・・ああ、出先ですか
 ・・・用件ですか?
 ・・・落ち着いて聞いてくださいね
 ・・・今日の午前中に奥さんが救急搬送されましてね
 ・・・ええ、そうです。救急車で病院に搬送されました
 ・・・容態ですか?詳しいことは分りませんが、命に別条はないようですが相当悪いみたいです
 ・・・病院ですか?○×病院は御存知ですよね
 ・・・そうそう、○×駅のすぐそばにある病院です
 ・・・どのくらいで病院に来られますか?
 ・・・2時間?そんなに掛かるんですか?
 ・・・奥さん一人で可哀相だから、早めに来てあげてくださいね
 ・・・分りました。病院の方にはそう伝えておきます」

電話が終わりそうだったので、N事務長はメモをC地区長に差し出します。
メモには、「保険証持参のこと、お伝えください」 と書かれており、そのメモをちらっと横目で見たC地区長が慌てて言葉を続けます。

「ああ、それと病院の方から保険証をお持ちくださいって
 ・・・そうですそうです
 ・・・何か他には?
 ・・・ちょっと待ってください」

C地区長は送話口部分を右手で押さえながら、N事務長に視線を送ります。

「まずは、保険証を持ってお越しくださるだけで結構です」

N事務長の言葉に頷いたC地区長は再び携帯電話を耳と口に持っていき、

「兎に角、病院に来て下さいってことです
 ・・・必要なものは、ご家族の方のようです
 ・・・はい、じゃあヨロシクお願いします。
 ・・・いえいえ、お気を付けてお越しください
 ・・・とんでもない、乗りかかった船ですから
 ・・・はい、失礼します」

C地区長はそう言い終えると、携帯電話の画面を見つめ、Bさんのご主人が電話を切ったのを確認してから、自分の携帯電話を折り畳みます。

「ありがとうございます」

「繋がって良かった。呼出音が続くうちに出ないんじゃないかと思ったよ」

「何とお礼を言っていいものか・・・」

「まあ、お礼はいいから、これからも○×市民の為に病院運営をよろしくお願いします。それだけです」

「ところで、Bさんのご主人はどんな様子でしたか? 驚かれておられましたか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうされましたか?」

「確かに、そう言われるとそんなに驚いてもいなかったな・・・」

以下 ●●Bさんのご主人の反応●● は16に続く


2010.4.21 水曜日

家族の形14

医療・介護のよもやま話 — admin @ 17:46:09

●●お節介コンビ面目躍如Ⅲ●● 

流石のお節介さん、C地区長は知り合いの銀行マンに電話を入れるとニンマリと笑った顔をN事務長へ向けます。
それにしても、このお節介な行動力は賞賛ものです。

「N事務長、5分もしたら電話が入るから待っててください」

「そんなに早く返事が来るのですか?」

「ああ、奴等は本業以外のことは、すぐに片付けるのが習慣だからね」

「それでは、事務長室へ戻りましょうか?」

「それもいいけれど、病院の中を案内してくれないかな」

「病院見学ですか?」

「ああ、私も近い将来お世話になるかもしれなし、後学の為にも見せて頂きたい。W議員はどうかな?」

「そうですね、私も事務長室や院長室はお邪魔していますが、病院内を見て回ったことはありませんから、○×市の基幹病院としての○×病院の中を是非見学したいものです」

「分りました。それでは、事務長室に戻りながら院内をご案内させていただきます」

病院で働く者にとっては、面白くも何ともなく只の職場にしかすぎない病院ですが、部外者にとっての病院は何か秘密めいた、何か謎に満ちたものを感じるのでしょう。
談話スペースを後にして1階の外来部門から順に案内を始めると、お節介コンビの2人は、大きく頷いたり、感嘆の声を上げたり・・・思いのほか喜びの表情を現します。
各診察室、診療放射線部、検査部、リハビリ部、栄養部・・・その他の各部署を案内してから事務長室の隣にある応接室に戻ると、5分後ではなかったけれど、C地区長の携帯電話が鳴りだします。

「失礼」
C地区長はそう言って、着信表示を確認すると、
「やっと返事が来た。思ったよりも遅かったな」
と言い、携帯電話の着信ボタンを押して、会話を始めます。

「もしもし
 ・・・ご苦労様、Bさんの連絡先判った?
 ・・・ああ、そうか
 ・・・それは、どうも
 ・・・手間掛けましたな
 ・・・ええ、教えてください」

C地区長はそう言いながら、N事務長に振り返って、指で鉛筆を持って何かを書く仕草をします。
これは、電話番号を書くペンとメモ用紙をくれという合図でしょう。
N事務長が慌ててボールペンとメモ用紙を渡すと、

「090-●●●●ー××××ですね
 ・・・ありがとうございました
 ・・・了解、来週の月曜日ね
 ・・・分った。今出先だから、また連絡させて頂きます
 ・・・はい、どうも」

C地区長はそう言って携帯電話を切ります。

「N事務長、Bさんのご主人の携帯電話番号が判明したよ」

「流石C地区長。恐れ入ります」

「な、C地区長の人脈は凄いだろ?」

「ええ、W議員にもC地区長にも感謝しております」

「さあ、ついでにBさんにも連絡しようか?」

「お願い出来ますか?」

「勿論!」

使える物や人は何でも使う。
これ、問題を解決する為の必須条件。
でも、見返りを要求する人には注意が必要。
でも、この人達ならば、これ見よがしに見返りを求めたりはしないでしょう。
今日のお節介コンビへの見返りは、病院見学ということ!

以下 ●●Bさんのご主人に電話●● は15に続く


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