真実は闇の中 50
●●N事務長の作戦Ⅶ●●
N事務長の繰り出すカマに次々に引っ掛かるGさんですが、でもこれらの言葉も口から出まかせの部類の言葉に違いないのでしょう。
まさしく嘘の上塗りをしているに違いありませんが、これまでに判明した嘘は、そもそもGさんは看護部長に電話で嘘をつき通していたし、GさんはIさんと昨日も接触をしていたことも隠していました。
そして接触だけならまだしも、どうやら何か約束までしているようです。
「何ですか、その、Gさんは約束のつもりで言ったわけじゃないけれど、もしかしてIさんは約束と思っているかもしれないということは?」
「いえ、たとえ話です。 そんなことってよくあるでしょ? 例えば電話で 『いつかお会いしたいですね』 って言っただけなのに、いつの間にか会うことになっていて、その後 『いつ会うの?』 って何回も聞かれたりすることってありませんでしたか?」
「はあ・・・その例えは、今までGさんが女性にしてきたことですか?」
「まあ女性というか、なんというか・・・」
どうやら今まで知らなかっただけで、このGさんという男は嘘の上塗りをする虚言癖にプラスして相手の心を弄ぶことも平気で出来るようです。
だから、純粋無垢で人を傷つけることが嫌いな人達の集団である他の医療従事者からは一線を引かれているのでしょう。
別にGさんから実害を受けた訳で無くても、Gさんの発する言葉や態度からそんなGさんの本質的な部分を感じ取って、だからこそ無意識のうちに一線を引いているのでしょう。
「へえー、そんなにGさんは女性からモテルんだ?」
「モテルとか言うのじゃなくて・・・普通に、そういうことって言いませんか?」
「なんで会う気も無いのにそんなことを言うんですか?」
「N事務長もそんな風に思う人なんですか?」
「どういうこと?」
「相手が言って貰って嬉しいことを言ってあげるのが普通でしょ?」
「でも実現しないことを言うと、その言葉が嘘だと分かった時のショックは倍になりますよ」
「そうかもしれませんが、一瞬でも幸せになったり、安心出来たり出来ればいいじゃありませんか・・・」
一瞬でも幸せになれたり、安心出来たりすればいいときましたか・・・そんな考え方をしていて、Iさんと何か約束をしたとなると・・・先生達が懸念していたとおり、もし腕の骨が折れていたら私が責任を取りますくらいのことは言っていそうです。
「そんなものですか?」
「ええ、私はそう思っています」
随分自信あり気なお言葉です・・・その根拠のない自信が、事を大きくしていないことを願います。
そして、Iさんと変な約束をしていないことも・・・
「で、何かIさんが約束と勘違いするようなことを言った覚えはありませんか?」
「約束と勘違いするようなことですか・・・」
「思い出せませんか?」
「N事務長、申し訳ありませんが思いだせません」
これはGさんに聞くだけ無駄です。
Iさんから聞いた方が得策のようです。
それでは最後に、今回のことの核心に触れてみることにします。
「ところでGさん、1週間前にIさんのリハビリ中に何かありませんでしたか?」
「えっ?」
「ですから、Iさんのリハビリ中に何かありませんでしたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
以下 ●●N事務長の作戦Ⅷ●● は51に続く