真実は闇の中 166
●●Gさんの仏前Ⅳ●●
お線香をあげる為にGさんの実家に伺ったN事務長を待っていたのは、Gさんのお母さんとお父さんと思われる年配の2人でしたが、N事務長と2人の間には微妙な空気感が漂っています。
「そうそう、ご挨拶もしていませんでしたわ」
「え、ええ、そうですね・・・」
「私が昨日電話を受けましたSの母です」 「父です」
どうやら間違いなくGさん、S.Gさんのご両親のようです。
ここは、もう一度ご挨拶をするべく、N事務長は膝を折って正座をして頭を下げてお悔やみの言葉を2人に述べます。
「この度は突然のことで・・・ご愁傷様です」
「わざわざお越し頂いて有難うございます。どうぞ線香をあげてやってください」
とGさんのお母さんに言われたので、身体の向きをお父さんお母さんから仏様の方へ向けます。
目に入ってきた遺影は間違いなくGさんです。
実家に辿り着くまでは、もしかしてGさんが騙しているのじゃないかと言う気持ちが僅かながらありましたが、遺影や位牌、骨壷まで見てしまえば、もうそんなことを疑う気持ちも湧いてきません。
N事務長は、胸ポケットにしまってあった御仏前を取り出して、仏前にお供えしてから、線香に火を点けます。
線香の火を手で消してから、線香を立てて手を合わせると、声を出さずに心の中でGさんに語りかけます。
『Gさん、Iさんとの問題を残して逝ってしまわれましたね・・・今まで、もしかして私のことを騙しているかと思っていましたけれど、どうやら本当に亡くなられたようですね・・・参りました・・・Iさんとの問題はさておき、まずは安らかにお眠りください』
N事務長が合掌した手を下ろして、遺影や位牌、遺骨が置かれた机の前の座布団から身体を移動させてからGさんのお父さんお母さんの方に向き直ると、Gさんのお母さんが、奥の台所からお盆に載せたお茶を運んできました。
「どうぞ」
と言って、茶卓にのせたお茶をGさんのお父さんの座るソファーの前のテーブルに置きます。
お茶に口をつけないのも失礼ですから、N事務長は身体をテーブルに近付けてからお茶に手をつけました。
すると、Gさんのお母さんが独り言を言うように話始めました・・・
「この家からも近い○×病院さんにお勤め出来て喜んでいたのにねえ、患者さまと何か問題があって辞めなきゃいけなくなるなんて、あの子、ついてないと嘆いてましたわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「○×病院を辞めてからは、なかなか次の仕事が見つからなくてね」
「そうですか・・・」
やっぱりそうだった。
次の仕事、転職先が見つかって退職すると言ったのは嘘だったようです。
「あの子の話によると、N事務長に濡れ衣を被せられた、責任を取って病院を辞めさせられるということでしたけれど・・・本当ですか?」
「そうなんですか?」
家族の中では、そんな話になっていたようです・・・だからこそN事務長に対する2人の対応がぎこちないのも頷けます。
「まあ、こんなことになってしまっては、誰にどんな文句を言ってもしょうがないのですけれど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「本当に、まさかのまさかです」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「結婚して、子供も出来て、これからだというのに・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「本当に世の中って、何が起こるか分からないことばかり・・・」
「・・・お母さま?」
「何かしら?」
「Gさんはどうして亡くなられたのですか?」
「ああ、そのことも知らないのでしたわね」
「ええ・・・」
「そうね、お話しますわ・・・」
「お、お願いします」
以下 ●●Gさんの仏前Ⅴ●● は167に続く