真実は闇の中 168
●●Gさんの仏前Ⅵ●●
今日N事務長が家を訪ねることをGさんの奥さんとお子さんは知らないそうです。
どうりで、実家に居ると聞いていたGさんの奥さんとお子さんの気配がないはずです。
しかし、Gさんのご両親の話で分かったことが何点かあります。
まずGさんが○×病院を辞めたのは、転職が決まったからではないこと。
そして、家族には病院を辞めた理由の一つに患者さまとの問題があったと伝えていたこと。
けれども、Iさんとの問題を詳しく家族に話していなかったこと。
これらのことを総合的に考えると、Gさんの家族に病院で何があったのかを話すのは、IさんがGさんの訃報を聞いてどのような反応を示すのかを確認してからでも遅くはないように思えてきました。
遅くはないというよりも、それがN事務長に出来るGさんへの、いやGさんの家族に対するお悔やみの気持ちのようにさえ思えてきました。
「ところで、息子は病院ではどうでしたか?」
「どうでしたか?」
「ええ、しっかりと働いていましたか?」
「え、ええ・・・」
「そうでしたか、何しろ結婚して家を出てからは、話す機会も減りましてね」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」
「でもお母さんや、お父さんの住んでいるこちらの家と、Gさんが住んでいたマンションはさほど離れてはいませんよね」
「月に一度くらいは、孫を連れてきてくれたけれど、孫の話が中心で息子の仕事の話はしなかったから」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「職場の皆さんとは仲良くしていたのかしら?」
「ええ、誰かと喧嘩をしていたとか、仲が悪かったというようなことは聞いていません」
「息子がこんなことになって、前の職場の仲間とかに伝える人は居ないのかと嫁に聞いたら、誰ともあんまりお付き合いがなかったと返事が返ってきたのよ」
「そうですか・・・」
「本当はどうだったの?」
「私は、Gさんと同じ部署にいた訳ではありませんので、特に誰と仲が良かったかは分かりませんし、職場の仲間の間で何か問題があったとも聞いていません」
「そう・・・その返事からすると、病院にあんまり親しい人は居なかったようね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
物は言いようです。 沈黙は金なり。
「まあいいわ、問題は息子の病院での様子を聞くことじゃないわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「息子が病院を辞めることになったという、患者さまのことも聞きたいと思っていたのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あら、そのことについてはN事務長はご存知なのでしょ?」
「え、ええ・・・」
「どうなさったの?」
「はい・・・どうもしません」
まいったなあ・・・そんなこと確認しなくてもいいのに・・・Iさんの様子をみてから穏便に済むようにしますから、今はこれ以上話しを掘り起こさないでください。
「今後、息子のことで知っておかなければいけないことが間違いなく出て来るでしょうから、何かあったらお聞かせくださいね」
「はい」
「で、どうなのかしら?」
「病院に戻りまして、お父さん、お母さんにお伝えしなくてはいけないことがあるか確認して、お伝えすることがあればご連絡させて頂きます。 今は退職後の手続きも全て終了していて、問題は無いと聞いています」
「そうなの?」
「はい」
お母さん、聞かぬが仏、知らぬが仏、という言葉もあります・・・
以下 ●●報告●● は169に続く