真実は闇の中 175
●●報告Ⅶ●●
普段ならば絶対にしないけれど、今日はIさんより先に応接室に入ってIさんが来るのを待つことにします。
事務長室から隣の応接室に移動して、部屋の照明や空調を入れます。
来客用の3人掛けソファーの上に落ちていた小さな糸くずをゴミ箱に捨てているとドアをノックする音が聞こえます。
「どうぞ」
とN事務長が答えると同時にドアが開いて、外来師長に連れられたIさんが腕を固定したまま姿を現します。
「こんにちは、1週間ぶりですね」
「そうね、時間はあっという間に過ぎていくわ」
「立ち話もなんですから、まずはお掛け下さい」
そういいながら、来客用のソファーに腰掛けるように促すと、付添の外来師長がIさんに話しかけます。
「Iさん、じゃあ私は戻りますね。 再手術上手くいくことを願っています。 手術が終わって落ち着いたらまた顔見せてね」
「ええ、今日までお世話になりました。 腕が完治するように頑張ってきます」
外来師長は 「じゃあ、頑張ってね」 と言いながら、Iさんの肩にそっと手を触れ、その後Iさんの元を離れると、Iさんから見えない様にN事務長にウィンクをしつつ 「失礼します」 と言い、応接室を出て行きました。
「N事務長、今日の話は何かしら? 転医先の事前の外来診察の時間の打合せはしましたし・・・送迎の手配も外来師長にして頂いたし・・・」
「Gさんのことです」
「Gさんね、そう言えば、息子と一緒に会うと言ったきり連絡がありませんけれど、連絡はついたの?」
「そのことなんですが・・・」
「もしかして連絡がつかないの?」
「結果的にはそうなるかもしれません」
「結果的には・・・そうなる?・・・一体どういうこと?」
「実は・・・Gさん、亡くなられまして・・・」
「亡くなった? 何を冗談を言ってるの? 彼まだ20代でピンピンしてるじゃない」
「そうですよね・・・普通はそう思いますよね・・・」
「どういうこと? Gさんと連絡が取れないから、N事務長が考えた冗談や嘘じゃないの?」
「もしそうであれば、その方が良かったかもしれません」
「・・・と言うことは、本当なの?」
「残念ですが、本当です」
「ど・・・どうして、そんなことになっているの?」
「先日、Gさんのご実家にお線香をあげに行ってまいりました」
「お線香・・・もう、そんなことになっているの・・・」
「ええ、私が知った時には、既に荼毘に付された後で、当然のことながらお通夜もお葬式も終わっていました」
「そ、そうなの・・・それで、何故? そんなことになったの?」
「Gさんのご両親にお聞きしたところでは、朝起きて来なくて、起こしに行ったら既に息をしていなかったということでした」
「寝ている間に・・・突然死ということ?」
「ええ、一応そんなことになっているようです」
「突然死か・・・そんなこともあるんだ・・・」
「驚かれるのも当然です。 私も悪い冗談かもしれないと思って、半信半疑でご自宅にお伺いしました」
「そうよね、誰だってそう思うわよね・・・」
「はい」
「なんだか、どうしたらいいのかしらね」
「え、ええ・・・」
以下 ●●Iさんの決断●● は176に続く