行き場のない患者116
●●院長、看護部長からの慰労●●
滅多にない院長から食事の誘いを受けて、N事務長が待ち合わせ場所である正面玄関に向かうと、院長と看護部長の2人がN事務長を待っていました。
病院はまだ夜診の最中ですが、たまには、こんな時間に病院を出るのもいい気分です。
院長、看護部長も一緒ですから、病院で何かあっても連絡さえ付けば、即座に対応、判断が下せます。
院長は、お寿司屋に連れていってくれるということですが・・・
何処のお寿司屋でしょうか?
「院長、何処のお寿司屋ですか?」
「N事務長もよく来てるって大将から聞いてるよ」
「?」
「そうなの?何処かしら?」
看護部長は察しがついたようです。もちろんN事務長も・・・
「今日は、キタにでも行こうかと思ったけれど、明日もあるから近場でね」
「と言うことは、○×寿司ですね」
「そういうことです。いいかな?」
「良いも悪いもありません。○×寿司はネタも新鮮で、美味しいですから、喜んでお伴させて頂きます」
「N事務長が、いつも行ってる店で悪いけど・・・」
「あら、私は、半年振りだから嬉しいわ。でもN事務長はそんなに通っていますの?」
「うーん・・・仕事が終わって、近場で、1人で行ける店となると、○×寿司くらいですので・・・」
「何とも寂しいお言葉・・・早くお嫁さん貰いなさい」
「看護部長、まあ・・・その話は・・・」
「ハハハ、N事務長もその話になると、言葉を濁しますね」
「ハア・・・」
そんな会話をしながら商店街を歩いていると、小粋な暖簾が掛かった○×寿司に到着します。
暖簾をくぐり、白木の引き戸を開けると、大将の威勢のいい声が飛んできます。
「いらっしゃい! どうぞ、こちらに!」
院長が事前に予約を入れたのか、カウンターの一番奥に通されます。
N事務長は、一番末席に座ろうとしますが、院長が真ん中に座れと言い張ります。
真ん中だと、両側に気を使わなければなりませんから、固辞してみますが、院長、看護部長に無理やり真ん中に座らされます。
少々居心地が悪いけれど、ここは我慢と院長の仰せに従って、真ん中に座ります。
「最初はビールでいいかな?」
「はい」
「じゃあ、大将、瓶ビール1本お願いします」
「はいよ! カウンターさんにビール!」
小ぶりなグラスに注がれたビールを軽く持ち上げて、院長が小声で乾杯の発声をします。
「今日は、本当に御苦労さまでした。私は何も出来ませんでしたから、せめてもの罪滅ぼしです。好きなだけ飲んで食べてください。乾杯!」
「イタダキマス」 「乾杯」
そんな・・・罪滅ぼしなんて・・・
「今日は、本当にN事務長には申し訳ないことをしました」
「そんなこと無いです」
「私もそう思います・・・」
あら、看護部長まで・・・
2人とも大袈裟に考え過ぎなんです。
以下 ●●院長、看護部長からの慰労Ⅱ●● は117に続く