行き場のない患者117
●●院長、看護部長からの慰労Ⅱ●●
N事務長も馴染みの寿司屋で、院長、看護部長から申し訳なかったと言われ、少々困惑気味のN事務長です・・・
「院長も看護部長も大袈裟に考え過ぎです」
「いや、そんなことはない。N事務長には嫌な思いをさせてしまった」
「私も何も出来ず、ただ見ていることしか出来ませんでしたわ」
「でも、あの状況下では、Tさんの要求を飲めば、Tさんが病院に来なくなる訳ですから、病院や職員のことを考えれば土下座も致し方ありません」
「それにしても、自分の中にある自尊心とかプライドをかなぐり捨てての行動は、私には出来ません」
「私もです。さぞ悔しかっただろうと思いますわ」
「そんなものありません」
「イヤ、N事務長はそう言うが、普通、誰でも躊躇します」
「私だったら、あの場で切れていたかもしれませんわ。そんな理不尽なこと出来ませんって・・・」
「そうですか・・・でも、今日の話し合いの目的は、如何にして、Tさん自身に病院に来ないと言わせるかです。その言質を得る為には、何でもするつもりでしたし、悔しいとか、プライドとか考える前に、ああここでTさんの要求を飲んだらTさんも引っ込みが付かなくなるなと思って、体が勝手に動いていたというのが本音です」
「そんなものですか・・・それでも、私には真似出来ません」
「病院や職員の為に、自分を捨てて、体を張れるというのは凄いわ」
「院長や看護部長は、医療や看護の現場で、体を張っていらっしゃるのですから・・・私に出来ることはあんなことぐらいです」
「いや、本当に頭の下がる思いで一杯だよ」
「何も出来なくて、ごめんなさい」
「いえ、本当に私の中では仕事の一環としか思っておりませんから・・・」
「そうですか・・・」
「以前から、院長にお聞きしたかったのですが・・・」
「何だね?」
「院長は何十年と医師として働いて来られた訳ですが・・・」
「何十年は言い過ぎですよ」
「ははは、すみません」
「確かに、医師になってかれこれ30年は経ったか・・・」
「その間に患者さまやその家族に何らかの謝罪で頭を下げたことはありますか?」
「もちろん。若い頃は血気盛んだったから、一度や二度では無いな・・・」
「そうだと思いますし、それを聞いて安心しました」
「でも、それはこちらに何らかの非があってのことだから」
「そうですが、今回の件も同じことです」
「どういうことかな?」
「今回の件は、我々がTさんの診療の拒んだことが問題の発端です」
「そうは言っても、あのままTさんの診療を続ける意味はないし、少なくとも薬物依存症には、Tさんをしてしまったろうから・・・」
「でも、それはこちらの言い分で、Tさんにしてみれば、それが最上の選択だったかもしれません。その願いや気持ちを叶えてあげられない訳ですから、頭を下げて済むのならばと考えることも出来ます」
「そうですか・・・そんな風にも考えられますね」
「もちろん、それは自分の取った行動の正当化の為の言い訳ですけれど・・・」
「・・・・・・・・・・」 「・・・・・」
以下 ●●院長、看護部長からの慰労Ⅲ●● は118に続く