行き場のない患者118
●●院長、看護部長からの慰労Ⅲ●●
院長、看護部長に対して、照れ隠しなのか “自分の取った行動の正当化の為の言い訳です” とのたまうN事務長に、無言の院長と看護部長。
2人の無言をいいことに、更にN事務長の弁舌は滑らかに・・・
「なんてカッコいいこと言ってますが、本音を言えば、早くあの状況を終わらせたかったということです」
「確かに・・・」 「あの人達と一緒に居ると、何を話しても同じですわ・・・」
「そう言うことです。
いつまでも同じことの繰り返し。堂々巡り。
会話は噛み合わない。自分の主張を繰り返すだけ。
そんな時に、土下座したら許してやるときましたから・・・
それこそ、天からの声だと思って、その言葉に飛び付きました。
まさに、藁にもすがるつもりで・・・そんなところが、本音でしょう」
「・・・何はともあれ、無事にこの件は終わったということですね」
「そういうことです」
「でも院長、N事務長は蹴られたり、シャツを破られたりしましたわ」
「そうそうN事務長、これはシャツ代の足しにしてください」
院長はそう言って、スーツの胸ポケットから封筒を取り出します。
中身は無論、お金、現金に違いありません。
金額は多分、1万円?
「院長、これは頂けません」
「いいから、取っておきなさい」
「いえ、私が自ら、抵抗もせずに破れたシャツですし・・・」
「いいから、さあ早く仕舞って」 「そうよN事務長、院長がここで引っ込めるわけにいかないでしょ」
「そうですか、それではお気づかいありがとうございます。有り難く頂戴いたします」
そう言って、N事務長は封筒をスーツの胸ポケットに仕舞い込みます。
封筒を持った感覚では、紙幣が1枚・・・1万円札?・・・でも、5千円札ということもありえるな・・・なんてN事務長が考えているとも知らずに、院長、看護部長のN事務長に対する慰労会は続きます。
「それで、蹴られた足はどうかね?」
「折れてるわけでもないですから、日にち薬で完治します」
「でも、H先生の話だと、蹴られた跡がくっきり赤くなっていたようだけれど」
「ええ、あんなに赤くなっているとは思いませんでした。恐るべきTさんのキック力と言うべきでしょうか・・・」
「全く・・・病院内で暴力を振るう患者を初めて見ました。それはそれで、ある意味ショックでした」
「さすがに院長の前で暴力沙汰に及ぶ患者さまはいませんよね・・・でも、看護部なんて普段から患者さまからのセクハラ、医師からのパワハラ、患者さま、その家族、職員からの罵詈雑言を医師に代わって浴び続けているんですからね」
「ハハハ、看護部長にはまいります」
「院長の言うとおり」
「何ですか、N事務長まで。ここは看護部と結託して医局を締め上げるいい機会なのに」
「残念ながら、私は何処の部署の味方もしませんから。残念でした」
「まあ! 憎まれ口叩いて。 こんなことならTさんをもうちょっと応援して、N事務長を痛めつけて貰えばよかった」
「看護部長、それはないでしょう」
「確かに看護部長、それは言ってはいけません」
「でも、こんな軽口叩けてよかったですわ」
「そうですね・・・」
「院長、食べてもいいですか?」
「ああ、そうしよう。今日は無礼講。好きなだけ食べてください」
「じゃあ、私もお言葉に甘えて・・・」
「看護部長は食べてもいいですけれど、お酒は控えめでお願いします」
「ああ、憎らしい。 N事務長は本当に誰の味方なのか、私にはさっぱり分かりませんわ」
「ハハハ、看護部長もお好きなだけお飲みください」
「そう言って頂けるのは、院長先生だけですわ。やっぱり医師と看護師は一心同体」
「じゃあ私は?」
「N事務長とは運命共同体だけれど、あくまで同盟関係です」
「そうですか・・・でも、その関係が一番ですね」
「確かにそうだ・・・」
以下 ●●これで終わらないのがTさん●● は119に続く