行き場のない患者119
●●これで終わらないのがTさん●●
院長と看護部長が修羅場を見ていたのに、自分達が何も出来なかった罪悪感から催されたN事務長に対する慰労会は、N事務長のお腹が一杯になるまで続きました。
N事務長も、これでもかと食べ、飲み・・・最後には動けなくなってしまう程、お腹一杯に詰め込みました。
これだけ食べれば、院長も慰労会をした実感がわくというものです。
などと、いいように勝手な解釈をしつつも、慰労会は無事終了となりました。
翌日は、昨晩のお酒と食べ物が胃に重く残るのもなんのその、仕事の最後の仕上げ、Tさんの報告書作成に精を出します。
昨日書いた、箇条書きのメモを元に肉付けをしていきますが、多少、オーバーな表現になるのは致し方ありません。
Tさんとのやり取りをまとめ、Tさんに対する病院の対応を書き・・・
この報告書は、第三者の目に入ることもありますから、N事務長の土下座については、先方の要求どおり、膝をついて謝罪という表現にします。
N事務長の小さなプライド?
院長、看護部長の前なら出来ても・・・他の人にまで知られたくないのが心情?
まとめには、Tさんは今後○×病院を利用しないことをN事務長の謝罪と引き換えに要求し、N事務長はそれに応じた。と結びました。
添付書類として、Tさんが投げ飛ばした椅子や位置のずれた机の写真、N事務長の破れたシャツ、N事務長の足の写真を追加して、報告書の作成を終えます。
その他の添付書類は、N事務長のカルテコピー、診断書のコピーです。
一連の報告書を作り終えて、作成者の欄に自署でN事務長がサインを入れます。
報告書確認者の欄には、院長と看護部長の欄も作ってあります。
後は、2人に報告書に目を通して頂き、サインを頂くだけです。
サインを頂いた後は、リスクマネージメントの綴り(ファイル)に保存します。
その後は、責任者会議で簡単な報告を行い、Tさんの今後の診療についての注意を与えます。
もちろん、N事務長が○×病院に勤務している限り、Tさんが診療の為に来院することはないでしょうが・・・
サインをして貰う為に、看護部長室を訪ねると、
「あら、N事務長。ご機嫌は如何?」
と、相変わらずの看護部長。
「はい、お陰さまで、昨晩は美味しいものを頂きまして、心は晴れやかです」
「それはよろしいことで・・・ところで、何の御用かしら?」
「昨晩、お話しました報告書のサインを頂きにまいりました」
「あら、もう完成?」
「もちろんです。鉄は熱いうちに打て?・・・こういうことは早くしてしまわないと忘れてしまいます」
「どうしたらいいの?」
「簡単に目を通して頂き、最終ページの確認者の欄にサインして頂ければ結構です」
「分かりました」
そう言って、看護部長が報告書に目を通し始めます。
数分で報告書に目を通し終えた看護部長は、
「あら、もっと大袈裟に書いてもいいんじゃないかしら?」
と言いがら、確認欄にサインをします。
「これでも、多少オーバーに表現したつもりですけれど・・・」
「もっと、何て言うのか、Tさんを極悪人にしてもいいくらいだと私は思います」
「そうですか・・・」
「でも、実際に被害にあった・・・当事者になっているN事務長がそれでいいのなら、私がなんだかんだ言う必要もないわね」
「作成し直すのもなんですし。もう、これでお願いします」
「わかりましたわ」
続いて院長室です。
「院長、昨晩はご馳走さまでした。昨晩申し上げた報告書持ってまいりました」
「どういたしまして。報告書に目を通して、サインだったね?」
「はい、お願いします」
院長は、報告書に目を通して、
「うん、中々よく出来てます。これなら、誰が読んでもTさんの行動が支離滅裂、理不尽な要求であることが理解出来ます」
「看護部長はもっとオーバーに書けばいいのになんて言ってました」
「ハハハ、看護部長らしいですね。でも、これで十分です」
「院長のお言葉に従わせて頂きます」
院長にも、確認欄にサインを頂き、事務長室に戻ります。
リスクマネージメントのファイルに報告書を仕舞おうとした時に、内線電話が鳴ります。
誰? もしかしてTさんの関係者?
以下 ●●これで終わらないのがTさんⅡ●● は120に続く