行き場のない患者138
●●電話●●
Tさんの伝書鳩であるノッポ君の2度目の訪問を受けたN事務長は、その訪問内容を早速院長に伝えます。
院長は、例によって、考えごとをしている時の癖、指先でアゴを触りながら、N事務長の報告を受けています。
院長は、一通りN事務長の報告を聞き終わると、座っているソファーから上体を少し起こして話し始めます。
「なるほど・・・医師会で話が出たのも、Tさんにそんな思惑があったからですか・・・」
「そうみたいです」
「それにしても、彼女は何を望んでいるんでしょう?」
「さあ、その真意が私にも今一つ理解出来ません」
「そうですよね」
「ええ・・・」
「そこまでして、当院で受診する意味も無いし、単に生活保護受給の為とも思えません。ましてや薬欲しさだけでも無いように思えます」
「仰る通りです。生活保護受給にしても、子供が3人いて、母子家庭で働いていない。勿論、その働けない理由が何らかの病気によるものとなっているんでしょうが、当院でその意見書を書いているわけでもありませんし・・・」
「そうですよね・・・」
「薬といっても、E内科部長によると依存症までには、なっていないだろうと仰っていました」
「それは私も確認しましたし、先日の話し合いの時もTさんを観察していましたが、まだ冷静に話をしようと思えば出来ると思いました」
「院長の仰る通りだと私も思います」
「患者観察のプロとしてのN事務長の意見はどうですか?」
「何だか、世の中に対しての不平や不満が鬱積していて、そのはけ口なんでしょうか・・・」
「はけ口ね・・・」
「仕事もしていない。子供3人と内縁の夫との5人暮らし。生活保護費と内縁の夫の給与でそれなりに収入はあるでしょうが、あり余る程の金額でもないでしょう。日々、することが無い。悩みと言えば、どうしてこの生活保護費の受給を続けるかしか無いでしょう・・・自分と世間の繋がりは、病院だけなんでしょう。だからこそ、病院の職員と何ならの繋がりを持ちたい。それが、この行動の元になっている」
「ふむふむ・・・」
「もっと、病院職員と親密な関係になりたい。でも、病院職員と親密な関係と言っても、それは病気を治療するという名目の上での関係であって、何か物足りない。だから、病院職員を困らせてやろうと考えるというのは如何でしょうか?」
「ふむ、そこまで考えての行動かね?」
「しかし、やり過ぎた為に思惑が外れて、出入り禁止になってしまった」
「なるほど」
「勿論、私が勝手に考えただけで、Tさん自身はそんなに難しく考えず、その場の思いつきで行動していると思います」
「そうだね・・・確かに、よく考えるとそんな風にも思えてきます。それでこれからどう対応していきますか?」
「ノッポ君によると、Tさんは弁護士に相談していると言っていましたから、それはそれで受けてたつしかないと思いますし、その方が話はスムーズに進むと思います」
「そうですか・・・N事務長がそう言うのであれば、私に異存はありません」
「それでは、何らかのアクションがありましたら、また報告に上がります」
「そうしてください。いつも言っていますが、危険なことだけは避けてください」
「はい、ご心配有難うございます」
そんな会話を院長とした後、事務長室で業務をしていると、内線電話が鳴ります。
受話器を取ると、医事課からです。
「N事務長、弁護士のOさんと言う方からお電話入っています」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
Tさんの依頼した弁護士かな?
以下 ●●電話Ⅱ●● は139に続く